『風の市兵衛シリーズ』とは
本『風の市兵衛シリーズ』は「渡り用人」という期間を区切って雇われ、家政のやりくりを行う侍を主人公賭する、痛快活劇小説シリーズです。
優男の主人公が意外にも剣の遣い手であり、様々な難題を解決していくという面白いシリーズです。
『風の市兵衛シリーズ』の作品
風の市兵衛シリーズ(壱部 完結)
『風の市兵衛シリーズ』について
本『風の市兵衛シリーズ』では「渡り用人」というはじめて聞いた職業が登場します。
「用人」とは、身分等により職務の内容も異なるようですが、旗本等では「金銭の出納や雑事などの家政をつかさどった者」を言い、また「渡り」とは、「渡り中間」などで使われているように、期間を区切って雇われる者を意味しているようです。
通常は家臣として用人がいる筈ですが、武士の世界もひっ迫していて用人を置く余裕もないのでしょう。そこで、業務の経費削減のために外部委託が行われることになったのでしょうか。
その前に、そもそもこうした職業が実在したのか簡単に調べたのですが分かりませんでした。
ただ、藤原緋沙子の作品に『渡り用人片桐弦一郎控』というシリーズがあり、他に岡本綺堂の『半七捕物帳』にも出てきたりするところを見ると、本当にあった職業なのかもしれません。『半七捕物帳 01 お文の魂』は Amazon の Kindle 版から無料版もあるようです。
加えて主人公は剣の使い手でもあり、幕府内のそれなりの力のある後ろ盾がいたり、仲間とも呼べそうな同心がいたりと、痛快時代劇の要素を十分に備えています。
勿論、そうしたエンターテインメントの要素を生かしきるだけの筆力も感じられます。テンポよく読んでいくことができるのです。
ともあれ、唐木市兵衛という「渡り用人」が武家やお店などの様々な依頼に応じてその職務をこなしながら、依頼にまつわる事件を解決していくという物語です。
幕府内の後ろ盾として、十人目付の筆頭支配役である片岡信正という腹違いの兄がおり、信正配下の返弥陀ノ介という男が市兵衛の深い信頼で結ばれている友人として登場しています。
また、市兵衛が仕事探しで世話になっているのが口入屋の矢藤太で、この男は市兵衛の京都時代からの知り合いです。
市井の市兵衛の友人の一人として、北町奉行定町廻り方同心の渋井鬼三次がおり、手下の助弥と共に何かと市兵衛の手助けをしています。
この三人に、医者の柳井宗秀を加えた面々が集まるのが深川にある深川堀川町にある一膳飯屋の「喜楽亭」で、そこの亭主はただおやじと呼ばれています。
ただ、本シリーズも『風の市兵衛 弐』になると、市兵衛も住まいを移しており、「喜楽亭」も無くなっています。
代わりに「蛤屋」という小奇麗な二階屋が舞台となり、集まる面々も、南町奉行所臨時廻り方掛同心宍戸梅吉やその使いの紺屋町の文六親分、そしてその手下である鬼渋の息子の良一郎と変化していきます。
まあ、渡り用人とは言っても、結局はスーパーヒーローの活躍する痛快活劇時代小説であることには違いはないのですが、その面白さは近頃のベストではないでしょうか。
野口卓の『軍鶏侍シリーズ』に並ぶほどの面白い小説でしょう。十分に期待に添えるシリーズと言えると思います。
シリーズも二十巻を越えた二十一巻目(作品としては十九作目)には、『風の市兵衛 弐』とシリーズ名に「弐」の文字が付いています。これは、このシリーズも新たな展開を見せると期待していいのでしょう。
ちなみに、2018年5月19日(土)から、NHKの土曜時代ドラマで「そろばん侍 風の市兵衛」が放映されました。
向井理主演で渋井鬼三次を原田泰造、返弥陀ノ介を加治将樹、青を山本千尋が演じています。
私は殆どドラマを見ないのですが、原作にこれだけ入れ込んでいるのだからと一話だけ見たところ、私の好みとは違ったようです。。
ちなみに、2022年9月27日現在では、NHKオンデマンドの案内はあっても、DVDは出ていないようです。