『架け橋 風の市兵衛』とは
本書『架け橋 風の市兵衛』は『風の市兵衛シリーズ』の第十八弾で、2017年8月に祥伝社文庫から303頁の書き下ろし文庫として出版された、長編の痛快時代小説です。
『架け橋 風の市兵衛』の簡単なあらすじ
唐木市兵衛を相模の廻船問屋が言伝を持って訪ねてきた。相手は返弥陀ノ介の許から姿を消した女・青だった。伊豆沖で海賊に捕えられるも逃げだしたらしい。弥陀ノ介には内密にと請われ、市兵衛はひとり平塚に向かう。一方、弥陀ノ介は“東雲お国”と名乗る女海賊の討伐のため浦賀奉行所に派遣される。だが、お国は、弟を殺された哀しみで、復讐の鬼と化していた…。(「BOOK」データベースより)
風の市兵衛シリーズ第十八作目の作品です。
『架け橋 風の市兵衛』の感想
本書『架け橋 風の市兵衛』は『風の市兵衛シリーズ』の第十八弾の長編の痛快時代小説です。
唐木市兵衛が、深川油堀の一膳飯屋「飯酒処 喜楽亭」で飲んでいるとき、廻船問屋弓月の主の七衛門という男が、「青」との一文字だけが書かれた一通の手紙を抱え訪ねてきて、市兵衛に「助けてほしい。弥陀ノ介には言うな」との伝言を伝えます。
早速に、七衛門の船で青が待つ須賀湊へと向かった市兵衛は、お腹がそうとわかるくらいに丸くなっている青と再会します。
話を聞くと、弥陀ノ介のもとを逃げ出した後、品川宿で上方商人に拾われ船で上方へ向かう途中に難破して海賊に拾われたものの、海賊の一人を斬って逃げだし、七衛門に助けられたと言うのです。
すぐに弥陀ノ介のもとへ連れ帰ろうとする市兵衛でしたが、弟を殺された海賊の首領東雲お国の復讐心は強く、その手下が市兵衛と共にいる青を見つけるのでした。
今回は久しぶりに物語の展開として新鮮に読むことができました。前巻『遠き潮騒』でも「シリーズとしての普通の面白さ」しかないと書きましたが、本巻は痛快小説として、いつも以上に惹かれた作品でした。
それはやはり、異国の女剣士である“青”が再びこの物語に登場してきたことによるものが大きいでしょう。
話自体は、青の復帰と復讐心に燃える海族との闘い、と言うに尽きるのですが、やはりいつもと異なる人物の登場によりシリーズの流れも雰囲気が変わると思われます。
本書自体もそうなのですが、弥陀之助と青との組み合わせが今後のこのシリーズにどのように関わってくるものなのか、そうした物語全体の流れに対する興味がかき立てられます。
合わせて、このシリーズのもう一つの魅力である、豆知識の披露があります。今回も前巻に続いて船の話です。
それは、弁財船と呼ばれる大坂と江戸とを結ぶ大型木造帆船の話であり、関東近辺の海運に用いられた五大力船という海川両用の廻船についての説明です。
本書では、廻船問屋弓月の五大力船と、海族の乗る、帆走・漕走併用の小型の高速船である押送船(おしょくりぶね)が物語の中心となっています。
本書ではもう一点、市兵衛の婿入りの話で盛り上がっている一膳飯屋「飯酒処 喜楽亭」の仲間の話もまた小さな山であるのかもしれません。始めて市兵衛の婿取りの話が本格的に進み、宮仕えをする市兵衛が誕生するかもしれないのです。
シリーズものの常として、若干の魅力度の落ちてきたことを感じないでもなかったこの物語ですが、今回は少しですが盛り返したような気がします。
ちなみに、シリーズも二十巻となり、“青”という新しいメンバーが増えたと考えていいものなのか、シリーズの二十一巻目には、気付いたら『風の市兵衛 弐』と名称に「弐」の文字が付加されていました。
このシリーズも心機一転し、新たな展開が見られることを期待したいものです。