辻堂 魁

風の市兵衛シリーズ

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北町奉行所定町廻り同心・渋井鬼三次の息子・良一郎が幼馴染みの小春と失踪した。書き置きから大坂への欠け落ちが疑われた。腕利きの文六親分の下ッ引をつとめる良一郎が何故?“鬼しぶ”と綽名される友の心中を察した市兵衛は、若き日、算盤を学んだ大坂へ。二人の捜索中、市兵衛は良一郎が探っていた、大坂に本店を持つ騙りの噂が絶えない両替商を見つける…。(「BOOK」データベースより)

 

序章 難波新地の心中 | 第一章 欠け落ち | 第二章 大坂慕情 | 第三章 南の女 | 第四章 南堀江 | 終章 千日前

 

新シリーズ『風の市兵衛 弐』の第四弾です。

 

渋井鬼三次の息子・良一郎が幼馴染みの小春と共に、心配するなとの書置きを残して大坂へと旅立った。小春の姉のお菊からの手紙が届き、小春は急に大坂へと旅立つと言い出したらしい。

渋井に頼まれた市兵衛は良一郎の兄貴分でもある富平を連れて大坂へと旅立った。

およそ二十年ぶりに訪れた大坂では、当時世話になった米問屋「松井」の今では隠居の身の卓之助を訪ね、歓待を受けるのだった。

翌日、お菊がいた店を訪ね、お菊の仲間だったお茂から、無理心中の相手である柳助の父親の伝吉郎や兄貴の慶太楠吉らの話を聞き出す。

その後、卓之助の紹介で朴念という男のもとに身を寄せ、大阪の裏の情報を集めてもらうと、危なげな情報が集まるのだった。

 

相変わらずの小気味のいい物語です。

辻堂魁という作家の作品はどの作品もある種の敵討ち、復讐譚になっている作品が多い気がします。本書を始め、先日読んだ読売屋 天一郎シリーズの『倅の了見』にしても物語の中心人物の錦修斎の甥っ子のための仇討ちの話でした。

つまりは世の中の不条理に押しつぶされてしまった弱者の仇を何らかの形で主人公らが果たすというパターンです。

 

 

とはいえ、よく練られている物語であり、それぞれの主人公に合わせた切ない話を紡ぎだすものだと感心してしまいます。

今回は大坂の町が舞台となっていて、その街並み、道頓堀の南にある千日前の火やなどの情報など、当たり前とはいえよく書き込まれています。

ここに「火や」とは「火葬場」のことであり、周りにはお寺や墓が多数あって墓参りの人が多数集まり、近くには盛り場ができるというのです。

 

そういえば、2019年05月18日放送の「ブラタモリ#133」は大阪ミナミの番組「なぜミナミは日本一のお笑いの街になった?」というテーマでした( ブラタモリ : 参照 )。

この場組の中で「火屋」の存在が今のお笑いの町の原点になっていることを言っていました。千日前にあった「火や」すなわち「墓所の跡地」こそが芝居小屋などの存立のもとになった、というような話だったと思います。

 

そうした詳細な大坂の町の描写を前提に、現代にも通じそうな、甘言で顧客から利益だけを吸い上げる仕組みなど、言葉巧みに持ち掛け金銭を貸し付ける手口などが描写してあります。

そして、いつものことながらの市兵衛の立ち回りもあって、痛快小説としての面白さを維持してあります。

本書で特に感じたのは、市兵衛とおよそ二十年ぶりに再会した卓之助という隠居の描写です。市兵衛に再会した喜びを実に的確に表現してあり、その上で市兵衛のかつての生活をも読者に知らしめてくれています。

どのシリーズも人気となっている辻堂魁の作品群の中でも本書『風の市兵衛シリーズ』が人気を誇っているのもよくわかる展開になっているのです。

 

大阪を舞台にした時代小説と言えば、今であれば 高田郁の描く『あきない世傳金と銀 シリーズ』が挙げられるでしょう。本書とは異なり、大坂天満の呉服商「五鈴屋」を舞台にした一人の少女の成長譚です。

 

 

ちなみに、当時の表記が「大坂」であって「大阪」でないのは、縁起をかついだためだとありました。「坂は土に返る=死ぬ」だとか、「士(さむらい)が謀反を起こすと読める」からだそうです( 日本漢字能力検定 : 参照 )。面白いものですね。

[投稿日]2019年08月24日  [最終更新日]2019年8月24日
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