『天空の鷹 風の市兵衛』とは
本書『天空の鷹 風の市兵衛』は『風の市兵衛シリーズ』の第五弾で、2011年10月に祥伝社文庫から376頁の書き下ろしとして出版された、長編の痛快時代小説です。
これまでのシリーズの中では算盤侍としての特色がよく出ていて、人情物語としてもよくできていると思われる作品でした。
『天空の鷹 風の市兵衛』の簡単なあらすじ
高砂が流れる北相馬藩江戸藩邸で、勘定人・中江作之助が斬殺された。算盤侍“風の市兵衛”は、病死と報された息子の死に疑念を抱き、出府してきた老侍・中江半十郎と知り合う。やがて遺品の勘定書を託された市兵衛は、それが藩を壟断する一派の悪行が記された物と気づく…。かつて“相馬の鷹”と呼ばれた老父とともに、市兵衛は卑劣な罠が待つ藩邸へと向かう。長編時代小説書下ろし。(「BOOK」データベースより)
『天空の鷹 風の市兵衛』の感想
本書『天空の鷹 風の市兵衛』は風の市兵衛シリーズ』の第五弾となる長編の痛快時代小説です。
本シリーズの最大の特色である主人公が算盤侍であるという特色がもっともよく生かされ、その上で人情ものとしての物語が組み立てられているため、シリーズ五作目までの作品の中では一番の面白さを持った作品として仕上がっていました。
そもそも経済の仕組みは現代でもなかなかに分かりにくいものですが、江戸時代の年貢米や米相場の仕組みなどもちろん分かるものではありません。
そのような江戸時代の社会経済の仕組みを、唐木市兵衛が用人としての立場で分かりやすく説明しており、それはこの物語の登場人物である元北相馬藩士中江半十郎に対してのものではあっても、同時にこの物語の読者の知識欲をも満たすものでありました。
また、本書の中心人物である中江半十郎という人物と市兵衛の出会いの場面の心地よさや、何といっても半十郎の経済に関しての無知に付け込んだ両替商の仕打ちを懲らしめる場面などは、市兵衛の「渡り用人」としての面目躍如たる場面であり、痛快時代小説の醍醐味を満喫させてくれる場面であって、読者にとってもいうことのない展開でした。
また、それとは別に剣士としての市兵衛の剣戟の場面もちゃんとクライマックスとして用意してあるのですから、痛快時代小説の読者としてはこの上ない喜びです。
ともあれ、「渡り用人」という特殊な職業に就いている市兵衛の魅力を十分に引き出した好編でした。