『銀花 風の市兵衛 弐』とは
本書『銀花 風の市兵衛 弐』は『風の市兵衛シリーズ 弐』の第三弾で、2018年8月に祥伝社文庫から339頁の書き下ろし文庫として出版された、長編の痛快時代小説です。
『銀花 風の市兵衛 弐』の簡単なあらすじ
唐木市兵衛と暮らした幼き兄妹小弥太と織江の親戚にあたる金木脩が酔漢に襲われ重傷を負った。柳井宗秀の治療で一命をとりとめたものの、酔漢は実は金木の故郷北最上藩の刺客であることが発覚する。急遽、北最上に奔る市兵衛。そこでは改革派を名乗る一派による粛清の嵐が吹き荒れていた―領民を顧みず私欲を貪る邪剣集団が、市兵衛暗殺に牙を剥く!(「BOOK」データベースより)
序章 忠犬 | 第一章 大川 | 第二章 羽州街道 | 第三章 江戸の男 | 終章 無用の用
『銀花 風の市兵衛 弐』の感想
本書『銀花 風の市兵衛 弐』は『風の市兵衛 弐 シリーズ』の第三弾の長編の痛快時代小説です。
柳橋北の船宿≪川口≫で襲われ重傷を負った北最上藩石神伊家馬廻り役助の金木脩は、からくも脱出し唐木市兵衛に連絡を取ります。
脩から話を聞いた市兵衛は、北最上藩へと旅立つのでした。
北最上藩の金木家へとやってきた市兵衛が隠居の了之助らに脩の状況を話しているところに、≪神室の森≫で伐採が始まったとの知らせが入ります。
早速了之助らと共に駈けつけた市兵衛は、伐採に付き添っていた黒装束の侍らを退けるのです。
小弥太と織江の親が死なねばならなかった原因となった金木家の本家中原家と宝蔵家との争いに巻き込まれざるを得ない市兵衛でした。
これまで面白い時代小説のシリーズものとして読み続けてきたこの『風の市兵衛シリーズ』ですが、若干のマンネリ感を抱いていたのもまた事実です。
そうしたことは作者も感じておられたからこそ、シリーズを新たにされたのだと思います。
そして、本書『銀花 風の市兵衛 弐』で新シリーズも三巻目になって、狙い通りにかなり読み応えがある作品となっています。
本書では、新シリーズの第一巻目『暁天の志 風の市兵衛 弐』に登場し、市兵衛が斬り捨てた信夫平八に関連した北最上藩石神伊家にまつわる話が未だ続いています。
つまり、信夫平八の実家である金木家本家の中原家と、宝蔵家との争いに巻き込まれた市兵衛が、横暴な宝蔵家を懲らしめ、小弥太と織江の実家の金木家を助けるという痛快小説の王道の物語になっているのです。
その市兵衛が中原家を助けるに至るまでの筋道が、丁寧に、しかも物語の流れの中で自然に為されているところがこの物語の魅力になっているのです。
加えて言えば、市兵衛の剣の冴えは本書でも十分に見せ場を作ってありますし、勧善懲悪の定番の流れを裏切ることのない、安定したおもしろさを保っています。
今回もまた市兵衛の仲間が登場する場面はほとんどありません。
新しい岡っ引きである紺屋町の文六は、脩が襲われた経緯について調べ上げていますが、この探索も、市兵衛の活躍自体にはあまり役には立っていません。ただ、読者に物語の背景を説明するという意味では大きく役に立っています。
そしてもう一点。中原家の娘が市兵衛に熱い視線を注ぎますが、そのことについてはあまり触れてないところは若干物足りなく思いました。
本シリーズで不満があるとすれば、この市兵衛の回りの女性の影の無さでしょう。
以前、京都時代の市兵衛の恋人らしき人物が登場してきたことはありますが、この頃はそれもありません。市兵衛ではなく、弥陀ノ介の恋の成就が少し描かれていたくらいです。
また、新シリーズになってすぐの市兵衛の過去の一端が明かされましたが、今のところは新しいシリーズでは何も変化はありません。今後どのように市兵衛の過去が関わってくるものか、そちらも楽しみです。
いずれにしろ、本書『銀花 風の市兵衛 弐』は面白さを取り戻した作品だと思われます。今後の更なる活躍を待ちたいと思います。