辻堂 魁

風の市兵衛シリーズ

イラスト1
Pocket


待つ春や 風の市兵衛』とは

 

本書『待つ春や 風の市兵衛』は『風の市兵衛シリーズ』の第十六弾で、2016年10月に祥伝社文庫から305頁の書き下ろし文庫として出版された、長編の痛快時代小説です。

 

待つ春や 風の市兵衛』の簡単なあらすじ

 

武州忍田は幕府の台所を支える最重要拠点である。年の瀬、公儀御鳥見役とその手下が斬殺された。領主の阿部家は追剥ぎ強盗の仕業とするが、公儀目付役は疑念を隠さなかった。同じ頃、唐木市兵衛は俳諧の宗匠を訪ねていた。彼は阿部家の元家士で、忍田までの旅の供を依頼される。破格の給金を訝しんだ市兵衛が真意を問うや、捕らえられた友の救出に向かうと…。(「BOOK」データベースより)

 

待つ春や 風の市兵衛』の感想

 

本書『待つ春や 風の市兵衛』は『風の市兵衛シリーズ』の第十六弾の長編の痛快時代小説です。

 

元阿部家家臣である俳諧師の芦穂里景が武州忍田領阿部家の上屋敷を訪れ頼まれたのは、武州忍田領内で殺された公儀御鳥見役の殺害犯人として捕らえられた笠木胡風を助け出して欲しいということでした。

そこで、かねてからの知り合いであった矢籐太を通じて唐木市兵衛を雇い、芦穂里景とその身辺の世話をする正助という八歳の少年との護衛を頼み、武州忍田へと向かうのです。

公儀御鳥見役が殺された理由は、例によって武州忍田領阿部家の内紛にありました。

 

こうした時代小説の典型として、お家の重役らの専横があり、その専横に対し立ち上がる弱小な正義の一派がいて、ヒーローの助けにより物語は大団円を迎える、という一つの図式があります。

本書『待つ春や』はその典型的な物語であり、笠木胡風や芦穂里景らといった、お家の良心的存在を市兵衛が助け、勧善懲悪を果たします。

 

個人的には、弥陀之助の登場場面が無いことや、市兵衛の動きが遅いことなど、全く不満点が無いわけではありません。

しかしながら、そうしたことは個々人の勝手な要求ですから、作者の構築する物語の世界に十分に浸れる以上はそれでよしとすべきでしょう。

そして本書『待つ春や』は、本シリーズの第二作目の『雷神』で登場した小僧の丸平(がんぺい)を彷彿とさせる正助の存在もあって、読者の要求を最大限満足させてくれる作品になっていると思うのです。

[投稿日]2017年09月01日  [最終更新日]2024年5月14日
Pocket

おすすめの小説

おすすめの痛快時代小説

居眠り磐音江戸双紙シリーズ ( 佐伯泰英 )
佐伯泰英作品の中でも一番の人気シリーズで、平成の大ベストセラーだそうです。途中から物語の雰囲気が変わり、当初ほどの面白さはなくなりましたが、それでもなお面白い小説です。
風の市兵衛シリーズ ( 辻堂 魁 )
主人公が「渡り用人」というユニークな設定で、痛快と言うにふさわしい、とても読み易いシリーズです。
付添い屋・六平太シリーズ ( 金子 成人 )
さすがに日本を代表する脚本家のひとりらしく、デビュー作である本シリーズも楽に読み進むことができる作品です。
紀之屋玉吉残夢録シリーズ ( 水田 勁 )
門前仲町の芸者置屋「紀之屋」の幇間である玉吉を主人公とした、軽いハードボイルドタッチの読み易いシリーズです。
軍鶏侍シリーズ ( 野口 卓 )
デビュー作の軍鶏侍は、藤沢周平作品を思わせる作風で、非常に読みやすく、当初から高い評価を受けています。

関連リンク

シリーズ既刊一覧 | 辻堂魁 風の市兵衛シリーズ - 祥伝社
「風の市兵衛」シリーズ 既刊一覧
辻堂魁 風の市兵衛シリーズ - 祥伝社
祥伝社 公式サイト

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です