剣客商売シリーズ 番外編(完了)
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あまりにも有名なシリーズです。この作者には他にも多くの作品群がありますが、中でも『鬼平犯科帳』シリーズや『仕掛人・藤枝梅安』シリーズといったベストセラーが有名です。
主人公は、無外流の達人の秋山小兵衛と言っていいと思います。また、小兵衛の妻おはるや、小兵衛の息子の大治郎、後に大治郎の嫁となる田沼意次の妾腹の娘の佐々木三冬、更に小兵衛の手足となって探索の手伝いをする、小兵衛の門人だった四谷伝馬町の御用聞き弥七とその手下である徳次郎らが主要な登場人物です。
同様な設定の物語として、鳥羽亮の『剣客春秋 』というシリーズがあります。千坂藤兵衛とその娘里美、そしてその婿の彦四郎、弥八、徳次郎といった下っぴきらが活躍する痛快時代小説です。今では新しいシリーズにもなっています。
全部読んでしまうほどに面白い小説ではありますが、改めて本シリーズを読むと、申し訳ないけれど本シリーズの魅力には及ばないようです。
この秋山小兵衛は、江戸の剣術の世界では知る人ぞ知ると言う剣客です。もうすぐ還暦という年齢でありますが、鐘ヶ淵の隠宅に小兵衛の身の回りの手伝いに来ていたおはるという娘に手をつけてしまい、後に結婚してしまうような人物です。
一口で言えば、小兵衛親子の話を中心とした人情味あふれる活劇小説ですが、池波正太郎という作家の手になるこの小説は、単なる活劇小説の域を越えた物語として読み手の心に迫ってきます。
小兵衛の若い頃から、今に至るまでの剣術修行の中で得た修行仲間や立ち合い相手などが入れ代わりながら物語の中に登場してきます。また、一子大治郎も幼いころから小兵衛の師である辻平右衛門のもとへと修行に出ており、今では小兵衛に並ぶほどの腕前になっているのです。
ただ、シリーズの始めでは、剣術修行のみに専念してきた大治郎はそれ以外のこと、例えば女性に関しては全くのうぶであり、どう対処してよいのか分からなかったりもします。そこらは三冬と結ばれていく過程の物語で詳しく語られていて、この物語のユーモラスな一面となっているのです。
また、大治郎について言うと、そうした朴念仁であった人柄が、次第に人間が練れてくる様も見どころです。ちょっとした居酒屋で酒をたしなむようにもなり、酸いも甘いも噛み分けるとまではいかないにしても、当初の姿からはかけ離れた人物として成長していく様子もまた見どころです。
しかし、何と言っても一番なのは秋山小兵衛の人間的な魅力です。三冬という息子の嫁を通して時の権力者田沼意次とも知己を得、その力を借りながら事件を解決していく様子は実に小気味いいのです。
その田沼意次にしても、巷間言われるような賄賂に染まった悪徳政治家ではなく、広い視野を持つ優秀な政治家として描いてあります。
弥七や徳次郎といった小兵衛の手足となって動く回る人物もまた魅力的です。コミカルな内容の短編から、侍の生きざまを重厚に描き出すも掌編など、バラエティに富んだ内容の物語です。
また、池波正太郎作品といえば料理関連の描写が有名ですが、本シリーズでも随所においしそうな料理の場面が出てきます。
また、このシリーズは何度も映像化されており、テレビドラマでは山形勲と加藤剛、中村又五郎と加藤剛、藤田まことと渡部篤郎・山口馬木也、北大路欣也と斎藤工のものと四パターンで制作されているようです。
ちなみに、DVDは五シーズンも放映されたという藤田まこと版しか見当たりませんでした。
ついでに言えば、本シリーズはコミック化もされていて、さいとう・たかをと大島やすいちの夫々の作品が出ています。
私は画が丁寧い描いてあり好みだった大島やすいち版を購入しつつあります。このコミック版は、だいたい文庫本の一巻分をコミック二巻で描いてあると思われます。