廃業した元関脇がひっそりと江戸に戻ってきた。かつて土俵の鬼と呼ばれ、大関昇進を目前にした人気者だったが、やくざとの喧嘩のとばっちりで江戸払いとされたのだ。十五年後、離ればなれとなっていた妻や娘に会いに来たのだった。一方、“算盤侍”唐木市兵衛は、御徒組旗本のお勝手たてなおしを依頼された。主は借金に対して、自分の都合ばかりをくましたてるが…。 (「BOOK」データベースより)
風の市兵衛シリーズ第十四弾です。
本書では市兵衛は完全に脇に回り、一人の相撲崩れのヤクザものが主人公となっている物語です。風の市兵衛シリーズのメンバーは全く顔を見せない、一編の講談話となっています。
今回の市兵衛は、心ならずも雇い主の借金の縮小の交渉に赴いたのですが、その雇い主であるやくざな旗本の過去に触れることになり、そこで本書の主人公である一時は関脇にまでなり、人気を博していた元相撲取りと出会うことになるのです。
そこで繰り広げられる人情話は、一歩間違えば安っぽい講談話になりかねないのですが、そこは作者の筆力ということでしょうか、市兵衛色は薄くはあるものの、市兵衛の物語として仕上がっているのです。
市兵衛の話でなければ多分読まないだろうと思いながら、では、何故市兵衛の絡んだ話となれば読むのだろうかとの脇道にそれた感想を抱きながらの読書でした。