『うつけ者の値打ち 風の市兵衛』とは
本書『うつけ者の値打ち 風の市兵衛』は『風の市兵衛シリーズ』の第十五弾で、2016年4月に祥伝社文庫から305頁の書き下ろし文庫として出版された、長編の痛快時代小説です。
『うつけ者の値打ち 風の市兵衛』の簡単なあらすじ
算盤侍唐木市兵衛を、北町同心の渋井鬼三次が手下とともに訪ねてきた。岡場所を巡る諍いを仲裁してくれという。見世に出向いた市兵衛の交渉はこじれ、用心棒の藪下三十郎と刃を交えるが、互いの剣に魅かれたふたりは親交を深めていく。三十郎は愚直に家族を守る男だった。だが、愚直ゆえに過去の罪を一人で背負い込んでいる姿を、市兵衛は心配し…。(「BOOK」データベースより)
『うつけ者の値打ち 風の市兵衛』の感想
本書『うつけ者の値打ち 風の市兵衛』は『風の市兵衛シリーズ』の第十五弾の長編の痛快時代小説です。
前作秋しぐれ 風の市兵衛同様に本書もまた講談話の香りを濃密に持っている作品です。
ただ、前作よりも市兵衛色が強いのもまた事実であり、人情ものとして胸に迫る物語でもあります。
藪下三十郎こと戸倉主馬は、公金使い込みの負い目から、かえって更なる悪事へと引き込まれてしまいます。
それどころか、他の仲間から騙されて年老いた両親やかわいい妹の行く末を保証するとの言葉を信じ、仲間の罪をも一身に背負って出奔したのでした。
それから数年後、江戸の藪下で岡場所の用心棒となっていた主馬は、いさかいの末に唐木市兵衛と戦うことになるのですが、そのことは逆に二人の距離を近づける事になるのです。
前巻同様にストーリー自体は目新しいものではなく、どちらかと言えばよくある話です。
そうでありながら、辻堂魁という作者の手にかかると、人情味豊かな痛快時代小説として成立するのですから、作者の力量のうまさを感心するしかないと思われます。
痛快時代小説の王道を行く本書です。ただ物語のもたらす心地よさに浸り、既に出ている続刊を読みたいと思うばかりです。