辻堂 魁

風の市兵衛シリーズ

イラスト1
Pocket


深川で干鰯〆粕問屋の大店・下総屋の主が刺殺された。玄人の仕業を疑った北町奉行所同心・渋井鬼三次は、聞き込みから賊は銚子湊の者と睨み急行する。同じ頃、唐木市兵衛は返弥陀ノ介の供で下総八日市場を目指していた。三年半前に失踪した弥陀ノ介の友が目撃されたのだ。当時、銚子湊では幕領米の抜け荷が噂され、役人だった友は忽然と姿を消していた…。 (「BOOK」データベースより)

風の市兵衛シリーズ第十七弾です。出版冊数としては十九冊目であり「風の市兵衛19」と番号が振られています、作品としては十七番目の作品です。

 

公儀小人目付役の返弥陀ノ介は、幼なじみである松山卓、寛治兄弟の父辰右衛門から、三年前に行方不明となっている卓らしき人物を見たとの知らせがあり、その確認に行って欲しいいと頼まれます。公儀御目付役の片岡信正の許しを得てすぐに旅立つ弥陀ノ介でしたが、その隣には信正から頼まれた市兵衛の姿もありました。

二人は、知らせをよこした船橋の了源寺の随唱という住持から、卓らしき者を見かけた八日市場の立つ九十九里の名主の十右衛門への紹介状を得ます。十右衛門から銚子湊の様子を聞き、翌日、務場で聞いた卓が身を投げたという屏風ヶ浦の断崖へ行くと、三度笠の男らに飯岡の助五郎という侠客のもとへと案内されるのでした。

丁度その頃、深川で干鰯〆粕問屋≪下総屋≫の主人善之助が殺された事件を追っている北町奉行所定町廻り方同心の渋井鬼三次もまた、聞き込みで犯人は銚子湊のものらしいとのあたりをつけ、北町奉行の許しを得、銚子湊へと向かうのでした。

 

本書は、江戸期の海上輸送路の一つである「東廻り航路」の中継地として要の港になる、銚子湊を舞台とした物語です。

この「東廻り航路」に「外廻り」と「内廻り」とがあることなど、何かのテレビ番組でかつて聞いたような気もしますが、そうした豆知識も本シリーズの魅力の一つとなっています。

ただ、本書の物語自体は、なんとなくお約束の、大衆受けのするお涙頂戴的な設定となっています。しかし、この作者の手にかかると通俗的ではあるものの、痛快時代小説としての面白い物語となっています。

ただ、それはあくまでもこのシリーズ内の一冊として普通の面白さを持っているということであって、決してそれ以上のものではありません。面白さゆえに本を置く暇もない、とまでの水準ではないのです。

今回の市兵衛はあまり活躍の場がありません。それは、物語の中心にいる筈の弥陀ノ介にしても同様で、単に、三年前に行方不明となっている松山卓の足跡をたどる旅になっています。

銚子湊の幕府務場の改役を務める楢池紀八郎と、楢池の相談役である二木采女にしても、何とも人物像が単純で、面白い物語では必須の魅力ある敵役とはとても言えない存在です。

本来であれば、本書には『天保水滸伝』でおなじみの飯岡の助五郎といった有名人も登場させているのですから、もう少し物語に幅があってしかるべきだと思うのですが、残念ながらこの点でも今ひとつでした。

好きなシリーズであるために、かなりハードルを高くして読んでいたのかもしれません。でも本来、その期待に十分に応えるだけの面白さを持ったシリーズです。

今後の更なる展開を期待したいと思います。

[投稿日]2018年04月07日  [最終更新日]2018年4月7日
Pocket

おすすめの小説

おすすめの痛快時代小説

吉原御免状 ( 隆慶一郎 )
色里吉原を舞台に神君徳川家康が書いたといわれる神君御免状を巡り、宮本武蔵に肥後で鍛えられた松永誠一郎が、裏柳生を相手に活躍する波乱万丈の物語です。
剣客商売 ( 池波 正太郎 )
老剣客の秋山小兵衛を中心として、後添いのおはるや息子の大治郎、その妻女剣客の佐々木三冬らが活躍する、池波正太郎の代表作の一つと言われる痛快時代小説です。
居眠り磐音江戸双紙シリーズ ( 佐伯泰英 )
佐伯泰英作品の中でも一番の人気シリーズで、平成の大ベストセラーだそうです。途中から物語の雰囲気が変わり、当初ほどの面白さはなくなりましたが、それでもなお面白い小説です。
付添い屋・六平太シリーズ ( 金子 成人 )
さすがに日本を代表する脚本家のひとりらしく、デビュー作である本シリーズも楽に読み進むことができる作品です。
剣客春秋シリーズ ( 鳥羽 亮 )
剣術道場主の千坂藤兵衛とその娘里美、その恋人彦四郎を中心に、親子、そして若者らの日常を描きながら物語は進んでいきます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です