『あなたが誰かを殺した』とは
本書『あなたが誰かを殺した』は『加賀恭一郎シリーズ』の第十一弾で、2023年9月に講談社からソフトカバーで刊行された、長編の推理小説です。
本書の大半が犯人探しの「検証会」の描写に費やされている、いわゆる本格派の推理小説にも似た構成の作品です。
『あなたが誰かを殺した』の簡単なあらすじ
★★★ミステリ、ど真ん中。★★★
最初から最後までずっと「面白い!」至高のミステリー体験。閑静な別荘地で起きた連続殺人事件。
愛する家族が奪われたのは偶然か、必然か。
残された人々は真相を知るため「検証会」に集う。
そこに現れたのは、長期休暇中の刑事・加賀恭一郎。
ーー私たちを待ち受けていたのは、想像もしない運命だった。(内容紹介(出版社より))
『あなたが誰かを殺した』の感想
本書『あなたが誰かを殺した』は、社会派の作家と分類されると思っていた東野圭吾による、本格派の推理小説とでも言えそうな推理小説です。
物語は、終盤にいたってそれまで貼られていた伏線が次々と回収されていくのはもちろんのこと、犯人像も逆転に次ぐ逆転で意外性に富んでいて飽きることがありません。
誤解を恐れずに言うと、こうしたどんでん返しは物語の終盤だけに展開されるものではなく、探偵の加賀恭一郎が参加してからは常に意外性に満ちた展開をしているとも言えるかもしれません。
それほどに、惹かれる展開が待っているというとでもあります。
本書の特異な点は、そのほとんど全編が序盤で起きた殺人事件の解決編だけで成り立っている構成であることです。
本書全体が300頁強の作品であって、冒頭から30頁半ばあたりで事件が起きます。そして50頁になる前で探偵役の加賀恭一郎が登場して、70頁を越えたあたりからは「検証会」に参加する人たちとの会話が始まっています。
そして、その「検証会」の中での加賀恭一郎の考察は他の登場人物たちにとって新たな視点をもたらすものとなっていくのです。
本書『あなたが誰かを殺した』での物語の舞台は、序盤で鷲尾春奈と加賀恭一郎とが初めて会った場面などの数場面を除いて櫻木家、山之内家、飯倉家(グリーンゲーブルズ)、高塚家、栗原家の五軒の別荘がある別荘地の中だけです。
この舞台に個性豊かな人物たちが集まって恒例のパーティーを行うところから始まりますが、このパーティに集まる人物が櫻木家、山之内家、高塚家、栗原家の四軒の別荘の関係者達です。
個別にみると、まず櫻木家関係者としては、櫻木病院の院長である櫻木洋一、洋一の妻の櫻木千鶴、そして櫻木夫妻の娘で櫻木病院で事務員として働く櫻木理恵、理恵の婚約者で櫻木病院の内科医である的場雅也です。
次いで山之内家の関係者は、この別荘に一人で住んでいる山之内静枝という40歳すぎの女性と、静江のもとに遊びに来ている静江の姪である看護師の鷲尾春那と夫で薬剤師の鷲尾英輔で、共にパーティへと参加しています。
グリーンゲーブルズと呼ばれている飯倉家の別荘は静江が管理をしており、現在は誰も住んでいません。
次の高塚家関係者は、ある会社の会長職である高塚俊作とその妻の桂子、それに俊作の部下の小坂均と七海夫妻とその息子で小学六年生の小坂海斗です。
パーティへの参加者は以上の人達ですが、そこに事件が発生し新たな人物が登場します。
それが、事件の犯人として自首をしてきた桧川大志であり、鷲尾春奈の依頼を受け「検証会」に同行することになった加賀恭一郎、それにパーティが行われた地元の刑事課長である榊です。
事件の後、自首してきた桧川が何も話さないところから検察が未だ事件の詳細をつかめていないとして、事件の関係者たちで事件について話し合いたいという高塚俊作の提案で「検証会」が開かれることになったのです。
先に述べたように本書『あなたが誰かを殺した』は通常の推理小説とは異なり、そのほとんどが加賀という探偵役による事件解決のための事実の確定と犯人探しに費やされています。
そして、この犯人探しの場となったのが「検証会」であり、この場で当事者たちの証言により何があったのかが次第に明らかにされていくのです。
最後に明かされる意外な事実は読み手の推測をも裏切り、繰り返されるどんでん返しは驚きの連続です。
そうした意外性は本書の特徴の最大の魅力と言っていいと思われます。
著者の東野圭吾の魅力の一つは犯罪動機の解明を通して示される社会的な問題提起にもあると思うのですが、本書の場合はどちらかと言うとかつての本格派の推理小説にも似た謎解きに重きが置かれた作品です。
特に本『加賀恭一郎シリーズ』は東野圭吾の作品の中でも社会性が強いと言われているシリーズであって、謎解きよりも犯罪動機やストーリー自体の魅力が売りだと思っていたので一つの驚きではありました。
ただ、『加賀恭一郎シリーズ』の中には『どちらかが彼女を殺した』『私が彼を殺した』などの本格派的な作品もありますから、本シリーズを社会派のシリーズだと思うのは私の早とちりというべきなのかもしれません。
どちらにしろ、本書『あなたが誰かを殺した』が魅力的であり面白い作品だというのは異論のないところでしょう。
東野圭吾作品の中でも一番好きなシリーズであり『加賀恭一郎シリーズ』の最新作である本書は十分に楽しめるひとときを過ごすことのできる作品だと言えます。