『春雷抄 風の市兵衛』とは
本書『春雷抄 風の市兵衛』は『風の市兵衛シリーズ』の第九弾で、2013年10月に祥伝社文庫から392頁の書き下ろし文庫として出版された、長編の痛快時代小説です。
『春雷抄 風の市兵衛』の簡単なあらすじ
渡り用人・唐木市兵衛は、知己の蘭医・柳井宗秀の紹介で人捜しを頼まれた。依頼主は江戸東郊の名主で、失踪した代官所の手代・清吉の行方を追うことに。一方、北町同心の渋井鬼三次は、本来、勘定奉行が掛の密造酒の調べを極秘に命じられる。江戸で大人気の酒・梅白鷺が怪しいというのだ。やがて二つの探索が絡み合った時、代官地を揺るがす悪の構図が浮上する…。(「BOOK」データベースより)
『春雷抄 風の市兵衛』の感想
本書『春雷抄 風の市兵衛』は『風の市兵衛シリーズ』の第九弾の長編の痛快時代小説です。
今回の唐木市兵衛は酒の密造事件にかかわる話で、若干ですが市兵衛の「渡り用人」としての顔が生きる物語になっています。
市兵衛は、いつもの飲み仲間である蘭医の柳井宗秀の紹介で、砂村新田名主の伝左衛門から代官所手代の清吉を探すよう依頼されます。
調べていくと、北町奉行所定町廻り同心の渋井鬼三次が探索中の老舗の酒問屋「白子屋」の不当廉売の話に繋がっていきます。
この問題は、新田の開発という江戸経済の根幹にかかわる事案があり、それから上がる年貢米の横領へと連なる問題でした。
すなわち川欠引という免租の仕組みや、どれだけの量の酒を造るかという酒造鑑札の仕組みまで絡む大事件へと発展するのです。
本書の物語は、横暴な役人や商人の欲のために失踪した手代と、残された手代の妻や子のために探索の手伝いをする市兵衛がいて、その結果が大捕物へと結びついていったのです。
正義の味方が悪を懲らしめるという、勧善懲悪の王道の痛快時代小説の醍醐味が満喫できる一冊でした。