辻堂 魁

風の市兵衛シリーズ

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寒月に立つ』とは

 

本書『寒月に立つ』は、『風の市兵衛 弐シリーズ』の第九弾で、文庫本で362頁の長編の痛快時代小説です。

今回は久しぶりに返弥陀ノ介が登場してきたと思ったのもつかの間すぐに重傷を負ってしまうという、こちらの思いとは異なる、それほどのめり込めない展開でした。

 

寒月に立つ』の簡単なあらすじ

 

返弥陀ノ介が瀕死の重傷を負った。公儀十人目付筆頭片岡信正の命による、越後津坂藩内偵の最中だった。津坂藩は譜代ながら跡継騒動を抱え、その陰に見え隠れする御用商人の不審な噂が絶えなかった。公儀としても政情の不安は見逃せず、信正は唐木市兵衛に引き続きの探索を託した。友の惨劇に市兵衛は、仇を討たんがため潜入するも、意表を突く敵の罠が…。(「BOOK」データベースより)

 

序章 密謀 | 第一章 御直御用 | 第二章 新梅屋敷 | 第三章 歳月 | 第四章 影役 | 終章 宴のあと

 

本所の北、向島を流れる十間堀にかかる押上橋のほとりで小さな茶店を営む清七は夜釣りの帰りに、幾筋もの切り傷のある返弥陀ノ介という侍を助け、赤坂御門内の片岡信正に助けを求めるよう頼まれた。

北町奉行所定町廻りの渋井鬼三次は横川の業平橋の橋杭に引っかかっていた水死体を検視に来ていたが、その死骸は多数の斬り傷があり、単なる水死体ではなかった。

しかし、北町奉行所に帰った渋井を待っていたのは、御目付役筆頭の片岡信正の申し入れにより町方の探索は不要という命だった。

一方、唐木市兵衛のもとに兄の片岡信正から呼び出しがかかり、返弥陀ノ介が斬られ瀕死の重傷を負ったため、市兵衛に弥陀ノ介の仕事を次いで欲しいと頼まれる。

市兵衛は親友の敵討ちでもあり、その仕事を引き受けるのだった。

 

寒月に立つ』の感想

 

久しぶりに返弥陀ノ介が登場してきて今回は面白い物語になるかと思ったとたん、弥陀ノ介は重傷を負ってしまいます。

後は、地方の藩のお家騒動に絡んだ事件がおき、その事件を市兵衛が解決するといういつもの展開へと落ち着いてしまいました。

この『風の市兵衛シリーズ』も『風の市兵衛 弐シリーズ』とシリーズ名も新しくなって登場人物も少しの入れ替えがあったりと、マンネリ化を防ぐために手立てを講じてあると思っていました。

しかし、本書に至り、少しではありますが再び渋井鬼三次が登場して市兵衛の探索の手伝いをするなど昔に戻った印象です。

新しく登場したはずの南町奉行所同心の宍戸梅吉などはその名前も出てきませんし、従前の『風の市兵衛シリーズ』と何ら変わっていないように思えます。

 

何よりもこの頃の本シリーズに不満があるのは、前回の『乱れ雲 風の市兵衛 弐』こそ若干面白いという印象はありましたが、結局はマンネリ感を払しょくできていないということです。

その点を除けば、さすがに辻堂魁の物語らしく堪能できる作品であるとは思うのですが、どうにも痛快小説のパターン、それもご都合主義的な展開にはまっているとしか思えず、ファンとして残念に思えるのです。

きびしく書けば、何よりも物語自体が新鮮味がなく、お家騒動と主君のために自分を殺して生きている侍の物語というよくある展開と言うしかありません。

特に、市井のやんちゃ坊主として生きてきた若君が人生が一大展開するはずなのに何の手当もないままに終わっている点など、この作者らしくない展開です。

自分の本当の生まれを知らされずに生きてきた子供にとっては大変な出来事の筈であり、もう少し何らかの配慮があって初めて物語として完結するのではないかという気がしてなりません。

 

また、返弥陀ノ介が傷を負い、それを助けたのがこの物語の関係者であるなど、物語の世界がものすごく狭くなっています。

偶然性に頼り過ぎると世界が狭くなってしまうし、ご都合主義と言われても仕方のないことになってしまいます。

いくら痛快小説であるとしてももう少し物語の世界を広くとってほしいと思うのです。

せっかく返弥陀ノ介とその妻の青が出て来たのに何の活躍がないままに終わってしまうのも淋しいものでした。

 

今回は全くの不満ばかりのレビューになってしまいました。

それでも物語として面白くないわけではないのです。せっかくの良いキャラクターが造形されているのですから、もう少し市兵衛の市兵衛らしい活躍を期待したいのです。

是非ともこのキャラクターを生かす物語を生み出して欲しいと切に願います。

[投稿日]2021年11月16日  [最終更新日]2021年11月16日
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作家になる前は出版社で働いていました。当時は純文学のようなものを書いては新人賞に応募していましたが、まるで駄目。歳をとり定年退職が近づき、作家にはなれないだろうと諦めていましたが、文章は書いていました。

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