『クスノキの番人』とは
本書『クスノキの番人』は、2020年3月に実業之日本社から刊行されて2023年4月に実業之日本社文庫から496頁で文庫化された、長編のエンタメ小説です。
東野作品としてはいつもの社会派のミステリーではなく、ミステリ要素を持ったファンタジーベースのヒューマンドラマというべき作品で、面白く読んだ作品でした。
『クスノキの番人』の簡単なあらすじ
恩人の命令は、思いがけないものだった。不当な理由で職場を解雇され、腹いせに罪を犯して逮捕された玲斗。そこへ弁護士が現れ、依頼人に従うなら釈放すると提案があった。心当たりはないが話に乗り、依頼人の待つ場所へ向かうと伯母だという女性が待っていて玲斗に命令する。「あなたにしてもらいたいこと、それはクスノキの番人です」と…。そのクスノキには不思議な言伝えがあった。(「BOOK」データベースより)
『クスノキの番人』の感想
本書『クスノキの番人』は、ミステリ要素のあるヒューマンファンタジー小説です。
東野圭吾の作品群の一つであるファンタジー系統の作品で、東京郊外の月郷神社にあるという願い事を叶えてくれるクスノキをめぐる人間模様が描かれています。
玲斗が管理人を務める月郷神社には、クスノキに願い事をするとその願いが叶うという噂があり、昼間からクスノキに願いをしに訪れる人が絶えませんでした。
しかし、クスノキへの願いは単純にお願いすればいいというものではなく、月のうちの特定の日の夜に祈念するしかなかったのです。
主人公直井玲斗は天涯孤独の身だと思っていましたが、とあることから母親の美千恵の異母姉だという柳澤千舟という女性が現れ、とある神社にあるクスノキの番人となることになります。
何の説明も受けないままに神社の、そしてクスノキの番人を続ける玲斗の前に、今クスノキに祈念をしに来た佐治寿明という男の娘の佐治優美と名乗る女性が現れます。
クスノキの祈念に関することについては何も話せないという玲斗ですが、娘はしつこく父親の秘密を探ろうとし、玲斗をその探索に引き込もうとするのでした。
そのうちに、玲斗にもクスノキに祈念することの意味がわかってくるのでした。
主人公の直井玲斗は、女一人で幼い玲斗を育てていた母親が夜の仕事をしていたため、きちんとした躾も受けたわけではありません。そこで、千舟は玲斗を管理人として育てるについて、敬語の使い方から教えることになります。
玲斗は千舟の期待に少しずつではありますが応え、次第にクスノキの管理人として成長していく姿がありました。
その管理人としての仕事の中で佐治寿明の祈念と、大場壮貴という青年の祈念を中心に物語は進みます。
さらに物語は、千舟が中心となって運営してきた柳澤グループにも関係してくることになり、更なる感動の展開に結びついて行くのです。
とはいえ、物語の中心となるのはクスノキへの祈念とは何か、佐治寿明や大場壮貴の祈念はどのように解決するのか、といった疑問の解明です。
また、疑問の解明に加え、玲斗が管理人として、また人間として成長していく姿を読ませるのはさすがに東野作品です。
著者東野圭吾のファンタジー系統の作品としては、まずは『ナミヤ雑貨店の奇蹟』が思い出されました。
ほかに、辻村深月の『ツナグシリーズ』や川口俊和の『コーヒーが冷めないうちに』なども同系列の作品だということができると思います。
ともあれ、東野圭吾の作品として惹き込まれて読んだ作品であることに間違いはありません。
ちなみに、本書の続編として 2024年5月には『クスノキの女神』が実業之日本社からソフトカバーで発売されています。