かつて、江戸随一と呼ばれた武家火消がいた。その名は、松永源吾。別名、「火喰鳥」―。しかし、五年前の火事が原因で、今は妻の深雪と貧乏浪人暮らし。そんな彼の元に出羽新庄藩から突然仕官の誘いが。壊滅した藩の火消組織を再建してほしいという。「ぼろ鳶」と揶揄される火消たちを率い、源吾は昔の輝きを取り戻すことができるのか。興奮必至、迫力の時代小説。(「BOOK」データベースより)
本書は『羽州ぼろ鳶組シリーズ』の第一巻目である長編の痛快時代小説です。
かつて、松平家の定火消として活躍し「火喰鳥」と呼ばれ人気を博した男がいました。その名を松永源吾といい、現在は妻の美雪と共に浪々の身として暮らしています。
そんな源吾を出羽新庄藩の折下左門という侍が訪れ、壊滅状態にある新庄藩の火消しを建て直してほしいと言ってくるのです。
本書は、『羽州ぼろ鳶組シリーズ』の第一巻目であり、壊滅状態の新庄藩定火消の立て直しに手を付けるところから始まります。
すなわち、まずは優秀な鳶を集めなければなりません。そこで、なじみの口入屋で越前人を雇う目途をつけます。ここでの美雪をも巻き込んだコミカルなやり取りは、美雪の能力を思い知らされる必見の場面でもあります。
その後、新庄藩定火消の柱ともなる、各組の中心となる人材探しに移ります。
そこでは膝に故障がある相撲取りの荒神山寅次郎(第一章)、軽業師の彦弥(第二章)、博覧強記の天才の加持星十郎(第三章)と有力メンバーを集める様子が、それぞれに一つの章を使っていかにも男の物語といった趣で語られます。
何とか定火消としての体裁は整えたものの、火消しとしての装束までは手が回らないため、「ぼろ鳶」と呼ばれ始める新庄藩定火消でした。それに合わせ、源吾の思いもかけない過去、それに源吾と美雪とのなれそめなどが語られます(第四章)。
次に、それなりの活躍を見せる新庄藩定火消として親しみを持たれ始める「ぼろ鳶」の様子、そして、あの鬼平の父親である火盗改長官長谷川平蔵宣雄や、田沼意次との知己を得(第五章)、クライマックスとして江戸三大大火の一つである明和の大火に立ち向かう源吾らの姿が描かれます(第六章)。
勿論、江戸時代の消火組織についても述べられており、本書の主人公源吾は町火消とは異なる武家の火消しである「定火消」としての活躍であることも示されています。
この「定火消」を主人公とする小説としては田牧大和の『泣き菩薩』があります。江戸は八代洲河岸の定火消同心であることあった若き日の歌川広重こと安藤重右衛門を主人公とした作品で、かなり面白く読んだ記憶があります。
ともあれ、物語はまだ始まったばかりです。少なくとも第一巻である本書は非常に面白く読むことができました。この分では今後の展開にも期待ができると思われます。
現時点(2019年2月)で第七巻まで出版されているのですから、それだけの水準を保っていると言えると思います。今後の展開が楽しみです。