辻堂 魁

風の市兵衛シリーズ

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斬雪 風の市兵衛 弐』とは

 

本書『斬雪 風の市兵衛 弐』は『風の市兵衛 弐シリーズ』の第十弾で、2021年8月に刊行された文庫本で316頁の長編の痛快時代小説です。

前巻の『寒月に立つ』の続編であり、前巻のあらすじの説明に多くの紙数を費やしてあるのはいいことなのか、疑問無しとは言えない作品でした。

 

斬雪 風の市兵衛 弐』の簡単なあらすじ

 

跡継問題に決着をみた越後津坂藩は、新たな江戸家老のもと財政再建に心血を注いでいた。そんな時、初老の勘定衆が百五十両を着服し逐電した。男は江戸家老の幼馴染みだった。友の潔白を信じる家老の依頼で、市兵衛は捜索を開始する。だが、行方は杳として知れなかった。ある日、市兵衛は失踪した男を知る場末の娼婦に出会う。さらに、不穏な噂がささやかれ…。(「BOOK」データベースより)

 

序章 雨宿り | 第一章 竹馬の友 | 第二章 隠れ里 | 第三章 海嘯 | 第四章 政変 | 終章 帰郷

 

深川の亥ノ堀川にかかる扇橋の水門に一体の腐乱した亡骸が浮かび、その懐から唐桟の財布が盗まれた。

文政八年の霜月も押しつまったころ、市兵衛は兄の片岡信正から呼び出しを受けて向かった《薄墨》で、津坂藩の新しい江戸家老の戸田浅右衛門から、鴇江憲吾・真野文蔵の一件についてのお礼の言葉を受けていた。

翌朝、呼び出しを受け宰領屋の矢藤太のもとへ行くと昨日会った戸田浅右衛門がいて、津坂藩勘定方で幼馴染でもあり、今は行方不明となっている田津民部の話を聞いた。

田津民部の失踪のあと、百五十両という御用金が無くなっていることが判明し、田津が着服し逐電したことになっているらしく、その田津民部を探してほしいとの依頼を請けることになった。

市兵衛は、田津の失踪後に下谷の源治郎という男が藩屋敷に田津を訪ねてきたという話を聞き、早速その男を探すことにしたのだった。

 

斬雪 風の市兵衛 弐』の感想

 

本書『斬雪 風の市兵衛 弐』は、前巻『寒月に立つ』での津坂藩の内紛の始末が中途で終わったため、その残党が生き残っていることからくる藩内の不正の決着をつける話です。

そのため、前巻での江戸のはずれで起きた闘争や当時の江戸家老聖願寺豊岳らの落命騒動などについての説明が、かなりの紙数を割いて為されています。

でも、前巻のあらすじの説明はもう少し簡潔に済ませてもいいのではないかと思われます。

というのも、本書の物語は言わば前巻の後始末でもありますが、物語としては独立しているため前巻との連続性はそれほどに気にする必要はないと思われるからです。

 

 

それはともかく、本書『斬雪 風の市兵衛 弐』でも市兵衛の探索は都合がよすぎるほどにテンポよく進みます。

その結果、田津民部の足取りは割と簡単に追え、とある女郎屋まで行きついて更なる探索の手掛かりを得て、田津民部失踪の裏の事情を探り当てます。

結局は、聖願寺豊岳一派の生き残りとしての津坂藩主の奥方であるお蘭の方や津坂藩江戸屋敷の勘定頭の志方進、それに彼らを財政面で支えている津坂屋五十右衛門たちの暗躍が次第に明らかにされていくことになります。

こうしたあらすじ自体は痛快時代小説の定型であり、そのこと自体はなんら言うことはありません。

それどころか、その流れに主人公の市兵衛が納得のできる理由をもって加わり、市兵衛の剣の腕もあって事件解決に資するのですから何の文句もありません。

とくに、江戸の経済事情が垣間見えるところなど、非常に面白く読んでいます。

本書でも津坂藩の蔵米積船は蔵米廻漕の一切を請負う商人請負の請負米ではなく、藩が積船を雇い廻漕料だけを支払う賃積みの廻米であり、越後から西廻り航路をとって上方、西国、下関を経由して越後の津坂湊へと向かう、などの言葉があり、非常に興味深く読むことができます。

 

この『風の市兵衛シリーズ』は、主人公を始めとするキャラクターも魅力的な人物が配されており、ストーリー展開も面白いシリーズです。

それは本書『斬雪 風の市兵衛 弐』でももちろん同じことです。

しかし、若干ご都合主義的な展開の見えるところや、ときに物語の進行が地の文での説明で済んでいるところが見かけられる点が気になります。

とはいえ、痛快時代小説では主人公という人気のキャラクターの活躍こそが主軸なのですから、ある程度は仕方のないところでしょう。

気になるとはいっても少しの違和感が残るというだけのことであり、本書もとても面白く、そして楽しく読むことのできた作品であることに違いはありません。

[投稿日]2022年03月07日  [最終更新日]2022年3月7日
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辻堂魁 風の市兵衛シリーズ - 祥伝社
作家になる前は出版社で働いていました。当時は純文学のようなものを書いては新人賞に応募していましたが、まるで駄目。歳をとり定年退職が近づき、作家にはなれないだろうと諦めていましたが、文章は書いていました。

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