辻堂 魁

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雇足軽 八州御用』とは

 

本書『雇足軽 八州御用』は、2023年9月に296頁のハードカバーで祥伝社から刊行された連作の短編時代小説集です。

ただ、それぞれの物語が普通の短編小説のようにはきちんとまとめられていないため、どうにも中途な印象の作品集でした。

 

雇足軽 八州御用』の簡単なあらすじ

 

己が命、武士の矜持のみに賭す
大ヒット「風の市兵衛」の著者の新たなる代表作!
日当わずか八十文。関八州取締出役の
艱難辛苦の旅の一年を、郷愁豊かに描く!

我々が農村の治安と繁栄を、ひたすらに歩いて愚直に守る。
越後宇潟藩の竹本長吉は上役の罪に連座し失職、故郷に妻子を残して江戸に仕事を求めてきた。様々な職の中、請人宿で選んだのは《雇足軽》だった。関八州取締出役の蕪木鉄之助の元、数名で一年をかけて関東の農村を巡回し治安を維持する、勘定所の臨時雇いである。日当わずか八十文。二八蕎麦が十六文、鰻飯なら二百文が相場だった。討捨ても御免だが、刀を抜くことは珍しい。多くは無宿の改め、博奕や喧嘩、風俗の取り締まり、農間渡世の実情調査や指導などの地道なものだった。巡る季節のなか、土地土地で老若男女の心の裡に触れる長吉は、妻子を想い己が運命と葛藤する。そんな時、残忍非道な押し込み強盗一味の捕縛を命じられーー
ときに鬼神と化し、ときに仏の慈悲を施す八州廻りを、郷愁豊かに描く!
(内容紹介(出版社より))

 

雇足軽 八州御用』の感想

 

本書『雇足軽 八州御用』は、関東取締出役(関八州取締出役)の蕪木鉄之助の巡回の旅を描く、連作の短編小説集です。

「関八州取締出役」とは、「八州廻り」とも呼ばれ、「関八州の天領・私領の区別なく巡回し、治安の維持や犯罪の取り締まりに当たったほか、風俗取締なども行っている。 」そうです( ウィキペディア:参照 )。

また、「八州廻り」の「「八州」とは、「江戸時代、関東八か国の総称。すなわち、武蔵、相模、上野、下野、上総、下総、安房、常陸」のことを言います( コトバンク:参照 )。

 

本書の登場人物として、まずは主人公は誰かというと、それが明確ではありません。

当初は、本書の『雇足軽 八州御用』というタイトルからして関八州取締出役が雇う足軽の物語だと思っていました。

そして、越後宇潟藩浪人の竹本長吉という人物についてわりと詳しくその来歴が説明してあったので、この長吉こそがタイトルの雇足軽だろうし、主人公だろうとの検討で読み進めていたのです。

しかし、どうもそうではないらしく、物語の内容からすると、本書の主人公は関八州取締出役の蕪木鉄之助と言った方がよさそうな印象です。

ただ、そう断言できるわけでもないほどに蕪木鉄之助に焦点が当たっているわけでもないので悩ましいのです。

とはいえ、本書全体を通した物語としてみると、この蕪木鉄之助こそが主人公というにふさわしいと思えます。

 

主人公が誰でも関係ないと言えばないのですが、物語は締まらず物語としての面白さに欠けることになるでしょう。

事実、読み終えた今でもなんとなくいつもの辻堂魁の作品とは異なり、何とも曖昧な読後感が残っています。

それは単に主人公が定まっていないから、というだけでなく、それぞれの物語自体の曖昧な処理の仕方にも原因がありそうです。

連作短編集として読んだので、各話が半端に感じたのではないかとも思いましたが、やはり物語の完成度が足りないと言うしかないのでしょう。

 

本書『雇足軽 八州御用』では、関東取締役という職務の紹介はかなり詳しくなされていて、その点は自分の中でもかなり好印象ではあります。

ただ、辻堂魁の特徴の一つである登場人物の衣装や状況の詳細な描写がことのほか強調されていて、若干詳しすぎないかという印象はありました。

加えて、上記の全五話にわたる連作短編の各物語がどうにもまとまりがないという印象もあります。

 

結局、本書の評価としては、辻堂魁という作者らしくない何ともまとまりに欠けた物語だというしかない、という結論になった次第です。

[投稿日]2023年11月15日  [最終更新日]2023年11月15日
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