『修羅の契り 風の市兵衛 弐』とは
本書『修羅の契り 風の市兵衛 弐』は『風の市兵衛シリーズ 弐』の第二弾で、2018年5月に祥伝社文庫から322頁の書き下ろし文庫として出版された、長編の痛快時代小説です。
『修羅の契り 風の市兵衛 弐』の簡単なあらすじ
病弱の妻の薬礼を得んがため人斬りに身をやつした信夫平八。断腸の思いで平八を刀に懸けた唐木市兵衛は、彼の忘れ形見、小弥太と織江とともに新しい生活を始める。日々、絆を深くする市兵衛と子どもたち。そんな中、岡っ引の文六、お糸夫婦が寝込みを急襲された。さらに、幼い兄妹が行方不明に―子どもたちの奪還のため死地へと向かう市兵衛に“修羅の刃”が迫る! (「BOOK」データベースより)
『修羅の契り 風の市兵衛 弐』の感想
本書『修羅の契り 風の市兵衛 弐』は『風の市兵衛 弐 シリーズ』の第二弾の長編の痛快時代小説です。
今回の物語は、大きく二つに分けられます。
ひとつめはシリーズの主人公唐木市兵衛の新しい勤め先での出来事で、ふたつめは前巻で市兵衛が倒した信夫平八が残した二人の子、小弥太と織江にまつわる話です。
最初の新しい勤め先とは家禄千二百石の旗本大久保東馬を当主とする大久保家であり、そこでの用人としての勤めです。
でも、そこには既に大木駒五郎という人物が既におり、大久保家全般のことを取り仕切っていたのです。
ところが、この大木駒五郎という男は大久保家を食い物にしようとしていることは明白であるにもかかわらず、大久保東馬はそのことを全く認めようとはしないのでした。
そしてもう一方では、小弥太と織江とが行方不明になってしまいます。その裏には、信夫平八とその妻由衣が国元から出奔する原因となった宝蔵家の三男であった竜左衛門の存在が疑われるのでした。
そこに、信夫平八の雇い主であった殺し人の元締めの多見蔵が信夫平八の敵を討とうと、新しい殺し人に岡っ引の文六とその女房お糸、そして市兵衛の殺しを依頼し、話は複雑になります。
こちらの話が本書の本筋の話ではあるのですが、市兵衛の痛快さが見れるのは最初の大久保家の話のほうです。
こちらは単純に頼りなさげに見えた男が実は芯の強さを秘めていたというヒーローものの王道のような展開を見せます。
そして、久しぶりに市兵衛の経理に強い、用人としての顔を満つことができる物語でもありました。
一方、小弥太と織江とにまつわる物語もヒーローものではあるのですが、こちらは物語で読ませる話となっています。
多見蔵と信夫平八との関係や、信夫平八と宝蔵家の竜左衛門と間の話、また市兵衛と幼い子らの関係はどうなっていくのか、などなかなかに読ませるのです。
そして、本来江戸の外に逃げ出せば足る筈の多見蔵が、新たに殺し人を依頼する理由なども丁寧に示してあり、私の好みをきちんと押さえた物語となっていました。
しかしながら、市兵衛の新しい物語も登場人物も確定してその中で物語が進行していくものと思っていたところ、更に思いの他の展開となってしまいました。
今後の展開はどのようになっていくものなのか、次巻を待ちたいものです。