本『居眠り磐音江戸双紙シリーズ』は、茫洋としたその風貌からは思いもつかない剣の腕を持つ坂崎磐根という青年剣士の活躍を描く、全五十一巻にもなる長編の痛快時代小説シリーズです。
そこには、故郷の藩の改革に絡む事件や、江戸の町の豪商やなどの幕閣に連なる速水左近など知己を得、田沼意次という強大な敵を相手にする存在となる一介の浪人の姿があります。
- 夏燕ノ道
- 驟雨ノ町
- 螢火ノ宿
- 紅椿ノ谷
- 捨雛ノ川
- 梅雨ノ蝶
- 野分ノ灘
- 鯖雲ノ城
- 荒海ノ津
- 万両ノ雪
- 朧夜ノ桜
- 白桐ノ夢
- 紅花ノ邨
- 石榴ノ蠅
- 照葉ノ露
- 冬桜ノ雀
- 侘助ノ白
- 更衣ノ鷹 上
- 更衣ノ鷹 下
- 孤愁ノ春
- 尾張ノ夏
- 姥捨ノ郷
- 紀伊ノ変
- 一矢ノ秋
- 東雲ノ空
- 秋思ノ人
- 春霞ノ乱
- 散華ノ刻
- 木槿ノ賦
- 徒然ノ冬
- 湯島ノ罠
- 空蝉ノ念
- 弓張ノ月
- 失意ノ方
- 白鶴ノ紅
- 意次ノ妄
- 竹屋ノ渡
- 旅立ノ朝
本シリーズの持つ魅力は、それはやはり第一義には坂崎磐根というキャラクターにあると思います。
茫洋としたその佇まいからは読み取ることのできない剣士としての側面を持つ存在は痛快時代小説の典型的なヒーロー像と言えます。
さらには、磐根を取り巻く脇役の魅力があります。
まずは後に磐根の妻となるおこん、それに磐根の剣の師匠の佐々木玲圓、磐根の許嫁だった奈緒。
また、おこんが奉公する両替商の「今津屋」の老分番頭の由蔵や主の吉右衛門。
また、品川柳次郎と竹村武左衛門という用心棒仲間。
後には、磐根の手足となる弥助や霧子。それに、おこんの婚儀に先立ちその養父となる将軍御側御用取次の速水左近など、挙げていけばきりがありません。
ただ、この『居眠り磐音江戸双紙シリーズ』は、ネタばれになるのであまり詳しくは書けませんが、途中から主人公のキャラが変わってしまっている感があり、なじみにくくなりました。
やはり、それまでの市井に住んでいた主人公にこそより親しみを感じていたのです。
主人公の語り口の変貌のためかとも思ったのですが、結局は今の主人公が高所からの物言いになっているようで、親しさを感じにくくなっているのではないでしょうか。
とはいえ、物語としてのこのシリーズが面白くない、というわけではなく、好きなシリーズのひとつであることには間違いありません。ただ、より身近に感じていたいという読者の我儘なのでしょう。
佐伯泰英作品の中でも一番の人気シリーズで、平成の大ベストセラーなのですから一般的にも受け入れられている作品です。
ちなみに、本『居眠り磐音江戸双紙シリーズ』の各作品は、いまでは決定版が出版されていて、シリーズ名も『居眠り磐音シリーズ』と名を変えて刊行されています。
詳しくは、
を参照してください。