小雪舞う一月の夜更け、大坂・南部藩蔵屋敷に、満身創痍の侍がたどり着いた。貧しさから南部藩を脱藩し、壬生浪と呼ばれた新選組に入隊した吉村貫一郎であった。“人斬り貫一”と恐れられ、妻子への仕送りのため守銭奴と蔑まれても、飢えた者には握り飯を施す男。元新選組隊士や教え子が語る非業の隊士の生涯。浅田文学の金字塔。( 上巻 : 「BOOK」データベースより)
五稜郭に霧がたちこめる晩、若侍は参陣した。あってはならない“まさか”が起こった―義士・吉村の一生と、命に替えても守りたかった子供たちの物語が、関係者の“語り”で紡ぎだされる。吉村の真摯な一生に関わった人々の人生が見事に結実する壮大なクライマックス。第13回柴田錬三郎賞受賞の傑作長篇小説。( 下巻 :「BOOK」データベースより)
浅田次郎の新選組三部作の第一弾の長編時代小説です。
ただひたすらに金に執着し、そして死んでいった新選組隊士吉村貫一郎の物語です。吉村貫一郎とは実在の人物ではあるらしいのですが、その詳細は不明で、後に子母澤寛(しもざわ かん)が「新選組始末記」で記した吉村貫一郎像をもとに本書で創作したものらしいです。
三部作の中では一番涙を誘われました。物語は史実を交えて進んでいくので、読後にはどこまでが史実なのか知りたくなり、吉村の子供が作り出したという寒さに強い稲は実在するのか等、実際に二~三の事実については調べた程です。
最初に主人公の吉村貫一郎が腹を切ることは読者には分かっています。その上で、腹を切るまでの吉村の回想による独白と、吉村貫一郎を知る新選組の生き残りの隊士を始めとする人達へのある人物の聞き取りとが交互に示される、という構成で物語は進んでいきます。
ここで、聞き取りをしている人物の名前が明かされていませんが、読んで行くうちに浅田次郎は「新選組始末記」他を著した子母澤寛を思っていいたのだろうとに考えるようになりました。
ただ、語り手の一人に新選組生き残りの居酒屋主人がいるのですが、このモデルが分かりません。
各語り手の夫々の話が涙を誘います。それもピンポイントで心の涙のボタンを突いてくる感じです。特に後半の家族による語りの個所になると、更にいけません。この本は人前では読みにくい本だと、痛切に思いました。
実に読みやすい文章と、読み手の心をくすぐる舞台設定と、物語の世界に引き込む筋立てと、三拍子そろった面白い小説の手本のような作品です。殆どの人は面白いと思うのではないでしょうか。だからこそのベストセラーなのですから、改めて言う方がおかしいですね。
本書の終わりに大野次郎右衛門の手紙が漢文で掲載されています。私も含め普通の人は漢文の素養はなく読み下すことは出来ないでしょう。そこで、現代語訳されたサイトを紹介しておきます。くれぐれも本書読了後に再度の涙を覚悟の上で参照してみてください。( 現代語訳 大野次郎右衛門の手紙 参照 )