浅田次郎

イラスト1

鉄道員』とは

本書『鉄道員』は、1997年4月に集英社から刊行され、2000年3月に集英社文庫から304頁の文庫として出版された、短編小説集です。

117回直木賞を受賞した作品でもあり、それぞれの物語の設定と浅田次郎ならではの心に沁みる文章は見事なものだとの印象でした。

鉄道員』の簡単なあらすじ

娘を亡くした日も、妻を亡くした日も、男は駅に立ち続けた…。映画化され大ヒットした表題作「鉄道員」はじめ「ラブ・レター」「角筈にて」「うらぼんえ」「オリヲン座からの招待状」など、珠玉の短篇8作品を収録。日本中、150万人を感涙の渦に巻き込んだ空前のベストセラー作品集にあらたな「あとがき」を加えた。第117回直木賞を受賞。(「BOOK」データベースより)

鉄道員 | ラブ・レター | 悪魔 | 角筈にて | 伽羅 | うらぼんえ | ろくでなしのサンタ | オリヲン座からの招待状

鉄道員』について

本書『鉄道員』は、第117回直木賞を受賞した、決して明るくはないけれど浅田次郎らしい八編からなる短編作品集です。

というよりも、どちらかというと暗い、重いとさえ感じてしまいます。しかし、読後に人の様々の「思い」について、改めて考えさせられ、自分の来し方を振り返ってしまう、そんな短編集です。

 

本書の基底には作者本人の経験譚があるらしく、私小説とまではいかなくても、それに近いものがあるのでしょう。

どの作品も素晴らしいのですが、個人的には「オリヲン座からの招待状」「ラブ・レター」「角筈にて」等に惹かれました。

 

表題作でもある「鉄道員(ぽっぽや)」は、いかにも浅田作品らしいファンタジックな要素もある人間ドラマでした。今思うと先に見ていた映画は少々原作のイメージとは異なるものであったようです。あの映画はやはり健さんあってのものだと思います。

 

ラブ・レター」は、最初は余りにも筋立てが出来過ぎていてどこか作り物めいて感じました。しかし、本当は小説外の情報で作品のイメージが左右されるというのは読み手としては良くないのでしょうが、あとがきで「身近で実際に起こった出来事」だったとあるのを読んで、印象が変わった作品です。

 

角筈にて」は、不遇の少年期を過ごした男が自らを捨てた亡き父を思い、街角に居る筈の無い父親の姿を見る、という話なのですが、この筋立ては男ならずとも琴線に触れるものがあると思います。特に解説の北上次郎氏の言うように、還暦を過ぎている私の年代から来る思いもあると思われます。

 

オリヲン座からの招待状」の二人は「地下鉄に乗って」の小沼佐吉とお時にもどこか似ています。この二人の描写が上手いですね。

 

本書『鉄道員』は浅田次郎の処女短編集だそうですが、浅田次郎という作家は当初からきれいな文章を書かれている人なのだと、改めて思わされる作品集です。どの作品も、ゆっくりと心の奥に染み入ってくるようで、素晴らしいです。

[投稿日]2015年03月22日  [最終更新日]2025年7月31日

おすすめの小説

おすすめの心温まる小説

ツバキ文具店 ( 小川 糸 )
小川糸著の『ツバキ文具店』は、2017年本屋大賞で第4位になった、一人の代書屋さんの日常を描いた心温まる長編小説です。本書の主人公の雨宮鳩子は、代書依頼者の望み通りに、依頼の内容に応じた便せん、筆記具、書体で、勿論、手紙を書く上での作法をふまえ手紙を仕上げていくのです。
博士の愛した数式 ( 小川 洋子 )
80分しか記憶が持たない数学者と家政婦とその家政婦の息子が織りなす物語。短期間しか記憶が持たないために種々の不都合、不便さが付きまとう中、三人は心を通わせていくのです。
ほどなく、お別れですシリーズ ( 長月天音 )
長月天音著『ほどなく、お別れですシリーズ』は葬儀場で働く女性を主人公としたお仕事小説といえ、大切な人との別れの場を描くヒューマンドラマシリーズです。死者と語ることができる特殊能力を持つ主人公とそのチームの姿が描かれる感動作です。
星の教室 ( 高田郁 )
本書『星の教室』は、2025年2月に角川春樹事務所から256頁のハードカバーで刊行された、長編の現代小説です。まさに高田郁の文章で夜間中学校という学び舎で学ぶ人たちの姿を紹介する感動的な成長小説です。
コーヒーが冷めないうちに ( 川口 俊和 )
時間旅行をテーマにした、心温まる物語で綴られた連作のファンタジー小説です。一話目から貼られた伏線が、きれいに回収されていく話の流れも個人的には好きですし、重くなり過ぎないように構成された話も嫌いではなく、切なくはありますが面白く読めた作品でした。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です