婚約者の求めで日本にやってきた米国人青年。東京、京都、大阪、九州、北海道…。神秘のニッポンを知る旅を始めた彼を待ち受ける驚きの出来事と、感涙の結末とは!(「BOOK」データベースより)
一言で言うと、一人のラリーというアメリカ人青年を通してみた日本という国を紹介した物語です。ただ、作者である浅田次郎の考えというフィルターを通したアメリカ人青年の主観的な日本感だということからか、微妙な違和感を感じます。
作者は、日本に留学している外国人留学生の日本感を聞いてたそうですから、ラリーという青年の日本感にはかなりの客観性はあると思われます。しかしながら、ラリーの語る日本は過剰なまでのサービスの国であり、日本人はみんな親切で、現実を知る人間にとっては妙な齟齬を感じました。
たしかに、日本人の親切さなことは事実であり、サービスの行きとどくことも事実だとは思うのですが、本書で述べていることはさすがに行きすぎではないかと思われるのです。
ただ、本書は物語もラリーが湯の町別府を訪れる後半に入るとファンタジーの要素が強くなってきますが、ファンタジーという観点からあらためて考えてみると、なにも後半ということではなく、この物語の当初から緩やかなファンタジーと言っていい気もしてきました。
浅田次郎という作家がもともとコメディータッチの作風を得意としていることを考え合わせると、緩やかなファンタジーの中に軽い皮肉を含ませながらも、やはり自然と融合した文化を育んできた日本という国への賛歌である、と素直に捉えていいのではないかという気がしてきたのです。
本書が面白い小説家と問われれば、大絶賛しつつ是非お読みなさい、というわけにはいきません。正直面白い物語だったとは思えないのです。それでもなお、この人の文章は読みやすく、心地よいものであったということは言えると思います。
『壬生義士伝』や『天切り松-闇がたりシリーズ』で見せた名調子はありません。普通の散文だと言えると思います。それでもなお、心地よく読める文章であるというのは、私の好みと合致したというよりも、浅田次郎という作家の素晴らしい才能ゆえのことだと思われるのです。