本書『きんぴか』は、浅田次郎のごく初期のユーモア長編小説ですが、浅田次郎の泣かせ方や、見せ場の盛り上げ方などは既に備わっています。
全体として一本の長編ではあるのですが、各章が短編としても読めるエピソードで構成されている、まさに浅田次郎の物語といえる楽しく読める作品です。
阪口健太、通称ピスケン。敵対する組の親分を殺り13年刑務所で過ごす。大河原勲、通称軍曹。湾岸派兵に断固反対し、単身クーデターを起こした挙句、自殺未遂。広橋秀彦、通称ヒデさん。収賄事件の罪を被り、大物議員に捨てられた元政治家秘書。あまりに個性的で価値観もバラバラな3人が、何の因果か徒党を組んで彼らを欺いた巨悪に挑む!悪漢小説の金字塔。(第一巻 「BOOK」データベースより)
きんぴかシリーズ(全三巻 完結)
- 三人の悪党
- 血まみれのマリア
- 真夜中の喝采
やっとシャバに出てきたヤクザ「ピスケン」、自殺未遂を起こした元自衛隊員の「軍曹」、そして大物政治家の収賄の罪を被った元大蔵キャリア「ヒデさん」の三人は、第一巻の冒頭で、退職間際の刑事「マムシの権佐」と引き合わされることからこの物語は始まります。
この作品も他の作品と同じく、荒唐無稽ではあるけれども、江戸っ子堅気に見られる「粋」や「義」で貫かれた、不器用とも言える「男気」の物語であって、これは即ち浅田次郎の基本であるようです。
第二巻目『血まみれのマリア』では阿部マリアの救急救命センターでの看護師長としての活躍が描かれていますが、このマリアはその後に『プリズンホテル』でも登場し読者の涙を誘います。
つまり本書『きんぴか』は、直接には『プリズンホテル』や『天切り松 闇がたりシリーズ』に連なる作品と言えるでしょう。
ただ、男気にあふれる三人の夫々の夫婦や家族の物語は、「粋」や「義」という「男の意地」の物語であって、それは『壬生義士伝』での吉村貫一郎の家族への思いや、『黒書院の六兵衛』の的矢六兵衛の行動にも通じていると言えそうです。
ただ、本書『きんぴか』はごく初期の作品であるがために、脂の乗った現在の作品である上記の『黒書院の六兵衛』程の完成度が無いのは仕方がなく、そのレベルを要求するわけにはいきませんが、あらためて現在の浅田次郎か書いた『きんぴか』の三人の物語を読みたいものです。