浅田次郎

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1938年秋。流行探偵作家の小柳逸馬は、従軍作家として北京に派遣されていた。だが、突然の要請で前線へ向かうこととなる。検閲班長の川津中尉と共に、北京から半日がかりで辿り着いた先は、万里の長城、張飛嶺。そこで待っていたのは、第一分隊10名が全員死亡という大事件だった。なぜ、戦場に探偵作家が呼ばれたのか。10名は戦死ではないのか!?分隊内での軋轢、保身のための嘘、軍ならではの論理―。従軍作家の目を通し、日中戦争の真実と闇が、いま、解き明かされる。「戦争の大義」「軍人にとっての戦争」とは何かを真摯に捉え、胸に迫る人間ドラマ。(「BOOK」データベースより)

 

日中戦争を背景に、万里の長城で起きた事件を描く長編の推理小説です。

 

作者の浅田次郎は「戦争を書くことは自分の使命だと思っています。」と言われ、これまでにも『日輪の遺産』『歩兵の本領』『終わらざる夏』『帰郷』などの戦争をテーマにした作品を発表しておられます。それは一つには浅田次郎自身が自衛隊出身だということもあるのでしょう。

そこには、

戦後は復員兵と街娼があふれていたのに、「悪い過去」を語る人はいない。僕の両親も戦争の話はしなかった。楽しかった思い出は話しても、辛かった話はけっしてしないんです。「負の歴史」というのは、語り継いでいかないと、そうやって消えてしまうんです。

という思いがあるようです。また、別な場所では

昭和26年、つまり終戦直後に生まれた僕の世代は、・・・・・・ 親からたくさん戦争の話を聞いて育っていて、だからこそ戦争を描くべき使命感がある。

とも言われていて、軍隊を描く明確な意思をもっておられるようです。

昭和二十六年生まれの浅田次郎氏は私と同じ時代を生きている人であり、彼が見た傷痍軍人などの風景は私の見た風景でもあります。ただ、同じ風景を見ているはずなのにそこから感じ取るものがこんなにも異なるのか、とも思い知らされます。

そうした作者が日中戦争を舞台に描かれたのが本書です。

 

万里の長城の「張飛嶺」で第一分隊の十名全員が死亡するという事件が起き、周りが共産匪の仕業だと決めつける中、従軍作家として北京に派遣されていた小柳逸馬が、探偵作家だということを理由に現場に派遣され、この事件の真相を探るように命じられます。

小柳逸馬は東京帝大卒で小説家志望だった検閲官の川津中尉とともに前線へと向かい、二等兵から叩き上げの小田島軍曹の出迎えのもと、関係者を尋問し、現場検証を経てこの事件の謎の解明へと導きます。

解明のための尋問の対象は、青木軍曹、加藤一等兵、山村大尉、海野伍長、それに張氏飯荘オーナーの張一徳といった面々であり、実社会を反映した個性豊かな人間たちばかりだったのです。

 

小柳らの活動を通して、読者には軍隊の仕組みも次第に明らかになります。例えば小田島の上官の銀行員であった山村大尉は軍人としての給料が出ますが、なんと銀行からの給料も支払われていたそうです。

他にも小柳逸馬のような従軍作家には少なくない支度金が支払われていたなどの知識もちりばめられています。

 

そもそも本書では「張飛嶺」での第一分隊全員の死亡の原因という謎もさることながら、この事件の解決のために何故に流行作家が派遣されたのか、などの事実も明確にされます。

そこでは、軍隊というもののありようも絡めて明らかにされていくのですが、理不尽な組織としての軍隊が描かれるこの点こそが、浅田次郎の書きたかったことなのでしょう。

 

ちなみに、事件の舞台をなっている「張飛嶺」は、万里の長城の中でも特に峻嶮な場所の「司馬台長城」をモデルとした架空の場所だそうです( カドブン インタビュー : 参照 )。

 

ともあれ、初めてのミステリーとは思えない、しかし、いかにも浅田次郎らしい物語でした。

[投稿日]2019年02月01日  [最終更新日]2019年2月1日
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