杉本 章子 雑感
杉本章子という作家さんは、幕末から明治初期の日本を舞台にした作品が多いように見受けられます。第100回直木賞を受賞した「東京新大橋雨中図」もそうですし、2011年に出版された「東京影同心」もそうです。
また、時代背景の描写が上手いのでしょう、幕末から明治期の町の雰囲気が伝わってきます。侍(為政者)目線ではなく、一般庶民の目で見た東京の町の印象の方が強いでしょうか。そんな町で生きる庶民の会話がまた生きて感じます。福岡出身の筈なのに上手いものだと感心してしまいます。当たり前と言えば当たり前ですが、作家という人はプロとして語り口まで勉強するものなのでしょう。しかし、一般的な知識と違い、語り口は慣れしかないと思うのですが。
少し調べてみると、杉本章子という作家の時代考証の確かさを指摘しているレビューを多く見かけます。先に書いたこの人の文章の印象も。こうした考証の裏付けがあって生きているのでしょう。
あまり普段耳にすることのない歴史上の実在の人物を取り上げている点も、特徴の一つとして挙げて良いかもしれません。「東京新大橋雨中図」は最後の浮世絵師と呼ばれた小林清親の物語ですし、「東京影同心」に出てくる「中外新聞」も実際に存在したものです。他にも多数あります。
以上のような考証の確かさは物語の背景を強固なものとしているのですが、文章は非常に読みやすく、テンポよく読み進むことが出来ます。詩情豊かにと言うと誤りかもしれませんが、それでも正確な情景描写は落ち着いて読み進むことが出来ます。
面白いです。
突然ですが、杉本章子さんが2015年12月4日に乳がんのために亡くなられました。62歳ということですが、私よりも若い。あまりにも早すぎます。
(杉本章子さん死去 福岡市在住の直木賞作家 西日本新聞より)
つい先日(11月7日)、宇江座真理さんが同じく乳がんで亡くなられたばかりでした。情感に満ちた時代小説の書き手がまた一人いなくなり、寂しいばかりです。
御冥福をお祈りいたします。