呉服太物店美濃屋の跡継ぎの信太郎と引手茶屋千歳屋の内儀おぬいの二人を中心とした人間模様を描く人情物語です。
信太郎にはおすずという許嫁がいたのですがおぬいのもとに走ってしまいます。その後、おすずは賊に辱められ自死してしまうのです。芝居小屋の手伝いをしながらおぬいと暮らす信太郎ですが、おすずの死の責は自分にあると自責の念にかられながら生きています。
信太郎とおぬいの二人を軸に、仕事場の芝居小屋やおぬいの千歳屋、信太郎の実家の美濃屋などの二人を取り巻く人々の人間模様が語られていきます。
全七巻の物語は当初は信太郎の捕物帖的な展開を見せていますが、そのうちに二人を中心とする人情話が主になり、そして家族の物語へと変化していきます。連作短編という形式も、その実、長編と言って良いでしょう。
このように、本シリーズは捕物帖と思っていると思惑と違うということになるかもしれません。しかし、捕物帖的要素も随所にあるのは間違いないですし、何より、全体を通して信太郎とおぬいの生活の変化、それに伴い描かれる人情話は思惑を超えた面白さがあると思います。
確かに、途中から物語の雰囲気が少々変わってはきます。しかしその変化も不快なものではなくて、反対に好ましく、文章の読みやすさとも相まって、テンポよく読み進めることが出来るでしょう。全七巻という長さも最後になれば逆に短いとさえ感じられるのではないでしょうか。実際、読み終えた後はその後の物語を読みたいと思ったものです。
信太郎人情始末帖シリーズ(完結)
- おすず
- 狐釣り
- 水雷屯
- きずな
- 火喰鳥
- その日
- 銀河祭りの二人