8月の穏やかな月曜日、東京湾臨海署管内の複合商業施設内で急病人が出て、救急車の要請があった。同じ症状で救急搬送される知らせが立て続けに入り、同じ毒物で三人とも死亡した。彼らにつながりはなく、共通点も見つからない。テロの可能性も疑う安積。そこに、犯人らしい人物から臨海署宛てに、犯行を重ねることを示唆するメールが届く――。捜査を続けていくなか、安積は過去に臨海署で扱った事件を調べることになり、四年半前に起きた宮間事件に注目する。拘留中の宮間は、いまだ無罪を主張しているという。安積は再捜査を始めようとするが……。(出版社・メーカーからのコメント)
本書は、東京湾臨海署安積班シリーズ第17作目の長編警察小説で、東京湾臨海署管内で発生した毒殺事件に対応する安積班のチームとしての活躍が描かれます。
東京湾臨海署管内の複合商業施設内で毒物による死者が立て続けに三人も発生し、テロとの疑いをも考える安積でしたが、リシンという毒物が検出されたとき、安積班の須田が、小さな鉄球を打ち込むという手口の海外での事件を思い出します。
その後、臨海署に犯人しか知りえない情報が書かれたメールが届き、安積は臨海署での過去の事件との関連を考え、その線で動き始めるのです。
本書はこのシリーズの中でもかなり上位に入る面白さを持った作品だとの印象を持ちました。本シリーズは、そもそもミステリーとしての謎解き自体が主眼ではなく、事件の解決に至るまでの安積班を中心にした人間ドラマにその面白さがあるのですが、その点でも登場人物の各々がうまく描かれていると感じたのです。
このチームとしての活躍といえば誉田哲也の『姫川玲子シリーズ』でも、主人公の姫川玲子だけでなく、他のメンバーにもかなり光を当ててありました。それでも、本書の安積班ほどにはチーム色を前面に出してはいないと思います。
須田を始めとする安積班の活躍もさることながら、本書では更に、交通機動隊所属の速水がかなりその存在感を出しています。普段から安積との掛け合いについては定評があるのですが、本書では特に二人の会話がテンポがよく、ジャンルは異なるのですが、どことなく、パーカーの『スペンサーシリーズ』におけるスペンサーとホークとの掛け合いを思い出していました。
単にコンビということでは、黒川博行の『悪果』での堀内とその相棒の伊達とのコンビは、また違った意味でユニークです。大阪弁を駆使したその会話は漫才といっても良いでしょう。その点では、同じ作者の『疫病神』の建設コンサルタント業の二宮と暴力団幹部の桑原の会話のほうが漫才かもしれません。
本書ではこれに加えて警視庁本部からやってきた池谷管理官がいます。更にいつも安積と対立する佐治基彦係長の殺人犯捜査第五係の存在が光っているのです。池谷管理官の率いるチームがあって、最終的には安積班の動きに光が当たる仕掛けは、定番とはいえうまいものです。
その流れの中、本庁のチームに負けるわけにはいかないと臨海署署長や総務課長の岩城などが安積を支える姿がまた小気味いいのです。こうした「意気に感ず」式の人間描写がうまく機能し、本書が万人受けする物語として成立しているように感じます。
この作者のもう一つの魅力シリーズ『隠蔽捜査シリーズ』と並び、本シリーズも楽しみなシリーズです。