警視庁捜査一課刑事の宇田川の同期、特殊犯捜査係の女刑事・大石が「しばらく会えなくなる」と言い、音信不通となった。かつて公安にいて辞めさせられた同期の蘇我と同じように…。 (「BOOK」データベースより)
「同期」シリーズの第三巻で、完結編です。
港区の運河でプロと思われる手口の殺人事件が起きた。所轄の臨海署に捜査本部がおかれることになり、宇田川は、臨海署強行班第二係の荒川巡査部長と組むことになった。
Nシステムにより、現場で目撃された車の所有者は麻布十番に住む堂島満という男で、訪ねると逃走を図るのだった。その場で逮捕し、臨海署で調べると「麻布台商事」という伊知原組のフロント企業の役員だという。
問題は、厚生労働省地方厚生局麻薬取締部や警視庁本部の組織犯罪対策部がマークしているということだったが、不思議なことに何も言ってこないらしい。そこに、Nシステムの分析から、麻布台商事の倉庫があるとの知らせが入る。
その倉庫近くの防犯カメラを調べると、車の運転手らしい女が大石陽子だった。そこに、蘇我から連絡が入った。大石の救済措置が機能しなくなったため、力を貸してほしいというのだ。宇田川が動けば植松や土岐も動くだろうことまで読んで、蘇我は宇田川に連絡をしてきたのだった。
本書は、まずは宇田川、蘇我、大石という所属先が全く異なる三人の、初任科三人のつながりを描いてあるとことが一番の見どころでしょう。
また、厚労省麻薬取締部の大石を見殺しにしろという横やりに対し宇田川が職を賭して反論する姿など、宇田川というキャラクターがはじける場面などもあり、爽快感を味あわせてくれる作品でもあります。
また、本書はミステリーとしても読みごたえを感じる作品でもありました。それは、目星をつけた男の役割についての見方が一面的であった点を修正し、事件の全貌を全く異なった観点から見なおす、などでも感じたところです。
加えて、本書では安積警部補率いる刑事課強行犯係安積班の活躍が人気の『安積班シリーズ』に登場する強行班第二係係長の相楽警部補が顔を見せており、競争心旺盛な独特なキャラクターを発揮しています。また第二係の班員である荒川巡査部長が宇田川の相方として重要な役割を担っていて、この点も見どころとなっています。
こうした異なるシリーズの登場人物が互いに顔を見せるというのは、先日読んだ誉田哲也の「ジウシリーズ」と「姫川玲子シリーズ」で相互に関連する構造である『硝子の太陽N』と『硝子の太陽R』という例を出すまでもなくファンにとっては楽しみでもあり、嬉しいものです。
このシリーズの第一作『同期』では、初任科つまり警察学校での同期の宇田川と蘇我という二人が描かれています。宇田川は刑事部捜査一課へ配属されますが、蘇我は公安に配属されるもののすぐに懲戒免職となり、さらに殺人事件の容疑者となってしまい、宇田川はそんな蘇我を救うために奔走するのです。
第二巻目の『欠落』では、宇田川の新たな同期として、警視庁刑事部捜査一課特殊犯捜査第一係に配属された大石陽子が登場します。配属後すぐに起きた立てこもり事件で大石自身が身代わりとなりますが、犯人と共に大石も行方不明となってしまいます。そこに蘇我から捜査状況を聞いてきた連絡が入りますが、そこに宇田川らは疑問を抱くのでした。
そして、本書『変幻』に至ります。本書では、前巻でも活躍した大石が殺人事件に絡んでいるかもしれないという事態に陥り、またまた登場する蘇我と共に宇田川らが大石救出のために活躍することになります。
警察小説の常として、刑事警察と警備警察、つまりは「警察」と「公安」は仲が悪いものというのがお約束です。これはある程度現実社会でも事実のようで、「国家」の存続を目的とする公安と、「国民生活の安定」を目的とする警察との職域の差ということになるのでしょう。
その仲の悪い二つの組織に別々に配属された初任科同期の二人の、「同期」としての繋がりを軸に、捜査一課に配属された宇田川の成長譚であるシリーズです。そこに大石という女性警察官が加わり、更なる面白さを見せていたのですが、本書を持ってシリーズの終了ということになってしまいました。
結局は蘇我という謎のキャラクターは謎のままに終わることになります。また大石についてもあまり描かれるところは少ないままでしたの、今後の展開の中で蘇我と大石が中心となるものと勝手に期待していたので残念です。