大阪府警今里署のマル暴担当刑事・堀内は、淇道会が賭場を開くという情報を拇み、開帳日当日、相棒の伊達らとともに現場に突入し、27名を現行犯逮捕した。取調べから明らかになった金の流れをネタに、業界誌編集長・坂辺を使って捕まった客を強請り始める。だが直後に坂辺が車にはねられ死亡。堀内の周辺には見知らぬヤクザがうろつき始める…。黒川博行のハードボイルドが結実した、警察小説の最高傑作。(「BOOK」データベースより)
悪徳刑事を主人公にした、黒川ワールド炸裂の長編の警察小説です。
大阪府警今里署の暴力団犯罪対策係に所属する巡査部長の堀内信也は、管轄内の暴力団である淇道会が賭場を開くという情報を掴み、他の部署からも応援を得て、相棒の伊達と共に開帳の現場へと乗り込む。
そこで捕まえた客らの情報を業界誌編集長の坂辺に流し、強請りの分け前にあずかっていた堀内だったが、次第に身辺にきな臭いものを感じるのだった。
本書の前半は、内偵で得た賭博開帳の情報の処理について、逮捕に至るまでの警察の行動の手引き、とでも言うべき流れになっていて、この段階では本書の特色は未だ見えていません。ここでは『疫病神』シリーズのような軽妙な大阪弁による掛け合いもあります。
後半になると、まるで異なる物語であるかのように物語が展開します。
主人公の刑事二人は冒頭から自らの収入源の確保に精を出していて、変わりはないのですが、ストーリーは、堀内の恐喝の相棒である業界誌編集者の坂辺がひき逃げにあうあたりから一気にサスペンス色が濃くなります。堀内と相棒の伊達のコンビが坂辺の死の謎を追うなかで、堀内が襲われ警察手帳を奪われるなど展開が激しくなってきます。
そして前半の賭博の場面が重要な意味を持ってきて、逢坂剛の『禿鷹の夜』を思わせるワルの活躍する物語へと変身するのです。このことは主人公のコンビだけではなく、登場する警察官皆が同じです。「正義」という言葉は机の上に飾られているだけです。
本書も『疫病神』シリーズと同様に緻密で丁寧な描写が為されていて、人物の行動の意味が明確です。読者はただ作者の意図に乗って読み進めていくだけとも言えます。この詳細さは警察の裏金や情報収集に不可欠の情報料など、警察の必要悪とされる側面についても同様で、これらの負の側面についての描写が全くの虚構だとも言いきれないのが哀しいところでもあります。こうした警察の負の側面を描いた小説として、北海道警察の問題をついた東 直己の『南支署シリーズ』や佐々木 譲の『笑う警官』などを思い出します。共にとても面白い作品でした。
緻密な構成と、大阪弁で繰り広げられる軽妙な掛け合いが魅力の黒川ワールドは、腰を据えて読む必要はあるかもしれませんが、一読の価値ありです。