『倉島警部補シリーズ』とは
本シリーズの『倉島警部補シリーズ』は、今野敏という作家にしては珍しい公安警察員を主人公にしたシリーズです。
とはいえ、基本的にはこの作家の他の警察小説の構成とあまり変わってはいないと思われ、今野敏のタッチが強く残った、読みやすいシリーズです。
『倉島警部補シリーズ』の作品
『倉島警部補シリーズ』について
この『倉島警部補シリーズ』は、当初の三作は倉島達夫警部補を主人公とするアクション小説風の作品でしたが、第四作あたりからシリーズの色が変わり、より公安警察色の強い作品になってきたように思います。
第三作まではヴィクトルというKGBの男との話が軸になっていたのですが、第四作目の『アクティブメジャーズ』からはヴィクトルは登場しません。
というよりは、シリーズ一作目の『曙光の街』ではヴィクトルがメインと言ってもいいほどであり、このヴィクトルによって主人公の倉島達夫は変わっていくのです。
この三作で、倉島はまだ頼りなさの残る、事なかれ主義の男から一人前の公安捜査官へと育っていきます。
そして、第四作の『アクティブメジャーズ』では、倉島警部補はゼロと呼ばれる研修から戻ったばかりということになっています。
ゼロの研修から戻ったということは、一人前の公安捜査官になったということであり、文字通りシリーズの主役となったと言えます。
それまで倉島を助けてきたヴィクトルは登場しなくなり、代わりに倉島の情報源としてロシア大使館の三等書記官のコソラポフという男が登場し、よりインテリジェンス色の強い話になっているのです。
シリーズ初期の三作は十年以上も前に読んだ作品なので、その後のヴィクトルの消息は覚えていません。
ここで「ゼロ」とは「チヨダ」とも呼ばれる警察庁警備局警備企画課の情報分析室のことであり、ここでの研修を終えた公安警察員は公安のエリートと呼ばれるそうです。
この「ゼロ」をテーマに書いた作品が、これまで何度も取り上げてきた麻生幾が書いた『ZERO』という作品です。
この本の惹句に「日本スパイ小説の大収穫でありエンターテインメント小説の最高峰」とあるのも納得の作品です。
ともあれ、前作『防諜捜査』が出てから五年後をへて新しく『ロータスコンフィデンシャル』という続巻が出ました。
これからも倉島警部補の成長譚が読めることを楽しみにしたいと思います。