元刑事で一人娘が失踪中のD県警広報官・三上義信。記者クラブと匿名問題で揉める中、“昭和64年”に起きたD県警史上最悪の翔子ちゃん誘拐殺人事件への警察庁長官視察が決定する。だが被害者遺族からは拒絶され、刑事部からは猛反発をくらう。組織と個人の相克を息詰まる緊張感で描き、ミステリ界を席巻した著者の渾身作。( 上巻 : 「BOOK」データベースより)
記者クラブとの軋轢、ロクヨンをめぐる刑事部と警務部の全面戦争。その狭間でD県警が抱える爆弾を突き止めた三上は、長官視察の本当の目的を知り、己の真を問われる。そして視察前日、最大の危機に瀕したD県警をさらに揺るがす事件が―。驚愕、怒涛の展開、感涙の結末。ミステリベスト二冠、一気読み必至の究極の警察小説。( 下巻 : 「BOOK」データベースより)
D県警広報を舞台にした横山秀夫のベストセラーとなった長編の警察小説です。
本書はD県警シリーズの一冊で、64(ロクヨン)とは昭和64年に起きた誘拐事件を指し、D県警内部で密かに伝えられてきた呼称です。
主人公はかつては第一線の刑事だったのですが、今は広報官という立場に居ます。この”広報官”という職種を主人公に据えた作品として、少々kとなるかもしれませんが、今野敏の『隠蔽捜査シリーズ』の主人公竜崎が警察庁で広報室長という職に就いていたという経歴があったと思います。
この主人公が広報官という立場から、第一にはマスコミと、第二に警察組織自体と、第三には自分の部下たちと戦うのですが、その描写が泣かせます。
そうした中、再び誘拐事件が起きます。この誘拐事件をめぐり、広報官として関わる主人公と警察組織、マスコミ、そして犯人とのせめぎあいが続きます。この作家の一番の見せ所なのでしょう。物語は一気にクライマックスへ向かいます。
少々長い本ですが、十分な読み応えがあります。実に面白い小説です。
ところで、広報官は警察という組織の窓口であり、その警察は当然公開すべき情報も組織として決定されるのだと思っていたのですが、この本の中ではそうでもないようです。刑事部は広報を信用せず、情報を小出しにしかしないのです。この作家は警察と言う組織のことをフィクションとはいえ適当に作って書くとは思われないのですが。実態はどうなのでしょう。
本書は、2015年4月から、NHKでピエール滝を主人公とし、全5回のドラマとして放映されていますし、また佐藤浩市主演で映画化もされています。