『継続捜査ゼミシリーズ』とは
この『継続捜査ゼミシリーズ』は、大学での刑事政策ゼミの担当教授とそのゼミ生とが、過去の未解決事件をゼミのテーマとして取り上げ、事件の真相について考える、という形式のユニークなミステリーシリーズです。
今野敏らしい、面白い発想の作品ですが、今野敏の作品の中では普通の面白さというべきシリーズでした。
『継続捜査ゼミシリーズ』の作品
継続捜査ゼミシリーズ(2021年11月01日現在)
『継続捜査ゼミシリーズ』について
本シリーズの中心人物は、警察学校校長を最後に退官し、幼馴染の原田郁子学長に誘われて三宿(みしゅく)女子大学のに准教授としてやってきた小早川一郎です。
その小早川が三宿(みしゅく)女子大学の人間社会学部の教授となり、特命捜査対策班に所属していたという経験を活かし担当する「刑事政策演習ゼミ」、通称「継続捜査ゼミ」で過去の未解決事件をテーマとして取り上げます。
ここで「特命捜査対策室」とは、殺人事件等重要事案の公訴時効の廃止に伴い、継続捜査の必要性がクローズアップされ、警視庁捜査一課にそのための部署が作られたものです。
このシリーズは、この「継続捜査ゼミ」に属する五人の女子大生とともに未解決事件について新たな視点で挑む、これまでにない形態の推理小説です。
この通称継続捜査ゼミと呼ばれる小早川ゼミには五人のゼミ生がいるのですが、彼女らの横顔は
を参照してください。
簡単にその横顔を記しておくと、城マニアでもあるリーダー格の加藤梓、遺跡に興味を持つ瀬戸真由美、法律に詳しい安達蘭子、薬学に詳しい戸田蓮、大東流合気柔術と直心影流薙刀をこなす武道家の西野楓という五人です。
このメンバーに、小早川が警察学校の校長だった時に初任科の研修を受けていた目黒警察署刑事組織犯罪対策課刑事総務係の巡査部長安斎幸助がオブザーバーとして参加し、現役の警官として資料の提供や意見を述べたりという手伝いをしています。
本シリーズの特徴といえば、一応捜査も終了した事案であり犯罪資料は揃っていて、ゼミ生が当事者に話を聞くことはあっても捜査の状況は描かれません。
ということは、通常は一人もしくは数人の探偵役や担当刑事による捜査の状況が描かれ、その捜査で得られた犯罪事実をもとに推理が展開されるのですが、本シリーズの場合は、その推理の過程がゼミという形式のもとに、複数人の討論という形式で明らかにされるというところでしょう。
もともと今野敏の小説は主人公の推論の過程を論理的に示しているところに一つの特徴と読み易さがあると思っていたのですが、本シリーズの場合は、その推論の過程が討論という形態で客観的に示されているのです。
こうした推論の過程を客観的に表現するという作品は本書意外には思いつきません。
本格派の推理小説では謎解きの過程の論理性こそが命のようなところがあるので、そういう点では似ているといえるかもしれませんが、謎そのものやトリック自体に重きを置くわけではなく、やはり本格派の推理小説とは異なります。