本書『黙示』は、『萩尾警部補シリーズ』の『確証』『真贋』に続く第三弾となる長編の警察小説です。
ただ、古代史を絡めた本作品は、居ながらにして推論だけで謎を解決するミステリ用語でいう安楽椅子探偵を思わせる展開で、私の好みとは異なる作品でした。
東京の高級住宅街・松涛で窃盗事件発生との報を聞き、萩尾警部補は相棒の秋穂と現場に向かった。被害者でIT長者の館脇によると、盗まれたのは神から与えられたという伝説をもつ「ソロモンの指輪」で、四隠円かけて入手したものだという。キュレーターの音川は、指輪の盗難に暗殺教団が関わっており、館脇が命を狙われていると指摘。古代文明に精通した探偵・石神が館脇の警護につくが―。(「BOOK」データベースより)
本書『黙示』は石神達彦も登場しており、今野敏の『神々の遺品』『海に消えた神々』と続く『石神達彦シリーズ』の第三弾とも言えそうですが、本書での石神は脇役に徹しており、『石神達彦シリーズ』に属する作品だとは言いにくいでしょう。
とはいえ、石神も重要な登場人物の一人であることには変わりはありません。
今野敏という作家の古代史関連の作品、特に『石神達彦シリーズ』は、確かに今野敏という作家がかなり詳しく調べて書かれたでしょう。しかし、小説としては、作者の調査事項を登場人物に語らせることが主軸であり、物語のストーリー自体は好みとは外れたものだったと覚えています。
本書『黙示』もまた同様で、被害者である館脇友久や、舘脇から依頼を請けた私立探偵の石神達彦、美術館のキュレーターであり贋作師でもある音川理一といった登場人物らが、萩尾警部補とその相棒の武田秋穂などにソロモンの秘宝などの古代文明について教え、説明しながら情報を語っています。
そもそも、私自身は超古代文明をテーマにした小説は決して嫌いではなく、どちらかというと好みの分野でもあります。
とはいっても、物語の中に古代文明を思わせる人物や道具が出てくる作品のことであり、古代文明を直接の舞台にした小説は知りません。
それでも例えば、高橋克彦のSF伝奇作品の『総門谷シリーズ』などは、直接に古代文明をテーマにした小説だと言えると思います。
総門と名乗る超能力者が率いる一団と主人公との争いを描いていたと思うのですが、かなり前に読んだのではっきりとは覚えていません。あまりに話が広がりすぎて収拾がつかない印象があって、一巻を読んだだけでやめてしまいました。
また、光瀬龍の『百億の昼と千億の夜』の中では、古代ギリシャの哲学者プラトンがアトランティス司政官オリオナエの眼を通してアトランティスの滅亡をみる場面が描かれています。
この作品は実に面白く名作といえるでしょうし、こうした作品も挙げてもいいかと思われます。
本書『黙示』に話を戻すと、古代文明の説明的な物語になっている、という点を除くと、ドロ刑としての萩尾警部補らの捜査およびその推論自体はそれなりの面白さはあります。
そして、彼らの捜査の一環として被害者である館脇らにソロモンの指輪、その指輪の背景としての古代文明の知識を聞くという流れ自体は不自然でもありません。
ただ、古代文明についての知識の開陳がくどく感じられ、警察小説としての犯罪捜査の側面がかすんでしまっているのです。
もちろん、金属を溶かすガスでありながらその炎に手を近づけても熱くないという「ブラウンガス」の話やアトランティスの話など、関心がある話もあります。
しかし、本筋の話がかすんでは本末転倒だと思うのです。この手の話が好きな人の中には本書を機にいる人もいるかもしれません。でも、個人的にはあまり好みの作品ではありませんでした。