大沢 在昌

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新宿鮫シリーズ』とは

 

本『新宿鮫シリーズ』は、新宿署の一匹狼の刑事である鮫島を主人公としたハードボイルド作品シリーズです。

 

新宿鮫シリーズ』の作品

 

新宿鮫シリーズ(2020年01月07日現在)

  1. 新宿鮫
  2. 毒猿 新宿鮫II
  3. 屍蘭 新宿鮫III
  4. 無間人形 新宿鮫IV
  5. 炎蛹 新宿鮫V
  6. 氷舞 新宿鮫VI
  1. 灰夜 新宿鮫VII
  2. 風化水脈 新宿鮫VIII
  3. 狼花 新宿鮫IX
  4. 絆回廊 新宿鮫X
  5. 暗躍領域 新宿鮫XI

 

短編集

  1. 鮫島の貌 新宿鮫短編集

 

新宿鮫シリーズ』について

 

本『新宿鮫シリーズ』は、警視庁公安部の秘密を握っているために部長という階級のまま新宿警察署生活安全課で活躍する孤高の鮫島刑事を主人公とするハードボイルドシリーズです。

この鮫島刑事は、キャリアでありながら、一匹狼の刑事という身分のまま誰にも忖度せず、やくざの頭にも噛みつくところから新宿鮫と呼ばれています。

 

警察もの、刑事ものではあるのだけれど、組織とは対極のところにいる鮫島個人の活躍を描きたいのだろうと思われます。

ハードボイルドという言葉の意味としては、タフな主人公の行動を簡潔で客観的に描写する手法としての意味や、感傷や恐怖などの感情に流されない、冷酷非情、精神的肉体的に強靭、妥協しないなどの人間の性格を意味するのだそうで、そうだとすれば、この作品はまさにハードボイルド小説と言っても良いと思われます。

 

本『新宿鮫シリーズ』の魅力は、とにかく主人公鮫島の魅力が一番でしょう。

加えて、警察という組織と個人という対立の図式を考えてあることや、鮫島をとりまく登場人物の魅力的な描き方にあるのでしょう。

 

まず前者をみると、警察組織に対する鮫島の、警視庁公安部時代に公安部内に関する重大な秘密を握っているというその構図が挙げられます。

単に巨大組織への反抗というだけでは弱すぎるところに、鮫島に武器を与え、一個人対巨大組織という構図を成立させているのです。

 

本書の魅力のもう一つである魅力的な登場人物をみると、まず恋人であるロックバンド「フーズ・ハニィ」のヴォーカルであるという恋人の存在があります。

次に、何かと警察組織と対立する鮫島を陰に陽に支えてくれている、鮫島の上司の防犯課長桃井正克警部らの存在があります。

一匹狼である新宿鮫ではあっても、こうした組織に対する優位性や仲間の存在があってこその一匹狼であり、そのことがこの物語のリアリティを更に高めています。

 

警察小説と言えば、近頃では今野敏の『安積班シリーズ』などのチームとしての活躍を描いた警察小説や、横山秀夫の『半落ち』のような社会性を持った警察小説が人気を博しています。

 


 

勿論そうした小説も非常に面白く、私も大好きな小説ですが、孤高の刑事を描く本書のようなハードボイルドタッチの小説もやはり手放すわけにはいきません。そうした点では堂場瞬一の『刑事・鳴沢了シリーズ』なども見逃せません。

蛇足ですが、『新宿鮫シリーズ』では第一話「新宿鮫」が一番好みです。次いで「無間人形」「狼花」あたりでしょうか。ちなみに「無間人形」では直木賞を、「狼花」「絆回廊」では日本冒険小説協会大賞を受賞しています。


緻密な警察組織の描写や暴力シーンの描写など、ライトノベルのような意味で軽く読める本ではありません。線の太い、読み応えのある作品です。かなりお勧めです。

[投稿日]2015年04月23日  [最終更新日]2024年4月25日

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数多くのハードボイルド小説が出ています。その中の私が好きだった作品の一部です。
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現代のハードボイルド小説の代表と言える作品です。とある港町N市を舞台に、酒場「ブラディ・ドール」のオーナー川中良一をめぐり、キドニーと呼ばれる弁護士の宇野や、その他ピアニスト、画家、医者、殺し屋などの男たちが各巻毎に登場し、語り部となり、物語が展開していきます。
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テロリストのパラソル ( 藤原伊織 )
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ススキノ探偵シリーズ ( 東 直己 )
札幌はススキノを舞台に探偵である饒舌な「俺」が活躍するハードボイルド作品です。大泉洋主演で映画化されました。
私立探偵沢崎シリーズ ( 原 尞 )
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関連リンク

鮫の泳跡/既刊全紹介 | 大沢在昌 『絆回廊 新宿鮫X』 特設サイト
記念すべき第一作だが、発想は単純だった。主人公がかっこよく、一読すかっとする小説。それを荒唐無稽に思わせないのが、全国26万人の警察官のトップ500人のキャリアの一人なのに、自己の信念のため、新宿署防犯課(のちに生活安全課)の一課員として任務に励む鮫島の設定だ。
著者インタビュー | 大沢在昌 『絆回廊 新宿鮫X』 特設サイト
今回、『絆回廊』を書き終えて思ったのは、果たして、いままでの「新宿鮫」読者がこれをちゃんと受け入れてくれるか、面白がってくれるか、「シリーズ最低作」なんて言われないか、だね。

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