『警視庁強行犯係・樋口顕シリーズ』とは
本書『警視庁強行犯係・樋口顕シリーズ』は、自己評価が低い強行犯係の刑事を主人公とする警察小説シリーズです。
常に他人の眼、上司の評価が気になりつつも正義感は強く、権威と衝突することも辞さない硬骨漢で、一般市民の安寧のために働く姿が描かれる、ちょっと変わった警察小説シリーズです。
『警視庁強行犯係・樋口顕シリーズ』の作品
『警視庁強行犯係・樋口顕シリーズ』について
本『警視庁強行犯係・樋口顕シリーズ』の主人公は、警視庁捜査一課強行犯第三係の係長である樋口顕警部補です。
このキャラクターがユニークで、先に出版されていた『安積班シリーズ』の主人公である安積剛志をどことなく彷彿とさせるキャラクターでもあります。
他人目を必要以上に気にする点や、両刑事ともに安易な妥協を許さず一般市民を守るためには権威と衝突することも辞さないなど、の共通点が見えるのです。
とは言っても、樋口警部補のほうがより自己評価が低く、他人の評価が気になる性格だとは言えるかもしれません。
さらに、この両刑事は後の『隠蔽捜査シリーズ』のキャリア警察官である竜崎伸也警視長というキャラクターへと繋がっているといえます。
もちろん、それぞれのシリーズごとに個性は異なり、読みごたえのあるシリーズですが、本『警視庁強行犯係・樋口顕シリーズ』は、キャリア警察官の姿を描く『隠蔽捜査シリーズ』、所轄署の強行犯係のチームとしての姿が描かれる『安積班シリーズ』とは異なり、警視庁強行犯係の樋口顕警部補という自己評価の低い刑事の姿が描かれます。
また、今野敏の警察小説らしく、『安積班シリーズ』の速水交機隊隊長のような主人公のよき助言者ともなる友人として、荻窪署生活安全課の氏家譲巡査部長(のち警部補、警部へと昇進)の存在が大きく感じられます。
さらに、警視庁捜査一課強行犯第一係係長の天童隆一警部補(第一巻『リオ』登場時)や、現場をよく知るたたき上げで人望も厚い田端守雄捜査一課課長などの樋口のよき理解者であり上司たちにも恵まれていると言えるでしょう。
この田端守雄捜査一課課長は、本『警視庁強行犯係・樋口顕シリーズ』の他に『安積班シリーズ』や『隠蔽捜査シリーズ』、『「同期」シリーズ』、『警部補・碓氷広一シリーズ』、『倉島警部補シリーズ』などにも登場している名物課長でもあります。
また、樋口警部補の家族として翻訳家の下請けの仕事をしている妻の恵子、高校生の一人娘の照美がいます。
妻の恵子は本シリーズ第二弾の『朱夏』では何者かに誘拐されてしまう立場におかれてしまう、重要な役どころを担っています。
本『警視庁強行犯係・樋口顕シリーズ』は今野敏の多くの警察小説シリーズの中でも主人公個人の内心をわりと前面に出しているという印象です。
特に今野敏は謎解きを重視している作家ではなく、各作品の主人公を中心とした人間ドラマや警察組織そのものを描いたりする場合が多いと思います。
警察小説として謎解きを軸にしたミステリー作品というよりも、登場人物の会話の妙や人間関係の面白さの方がメインになっている印象なのです。
そのためか、特に本『警視庁強行犯係・樋口顕シリーズ』は人によっては、ミステリーではない、などと言われる方もいるようですが、個人的には今野敏の一側面を描き出した作品として、好ましいシリーズだと思っています。
なお、本『警視庁強行犯係・樋口顕シリーズ』はNHK、テレビ東京、WOWOWと繰り返しテレビドラマ化されており、樋口顕役も鹿賀丈史、緒形直人、内藤剛志と演じています。