『わが心のジェニファー』とは
本書『わが心のジェニファー』は、2015年10月に小学館からハードカバーで刊行され、2018年10月に小学館文庫から400頁の文庫として出版された長編の現代小説です。
これまでのこの作者の作品群とくらべると、決して面白い物語とは思えない作品でした。
『わが心のジェニファー』の簡単なあらすじ
日本びいきの恋人ジェニファーから、結婚を承諾する条件として日本への一人旅を命じられたアメリカ人青年ラリー。ニューヨーク育ちの彼は、退役海軍少将の祖父に厳しく育てられた。太平洋戦争を闘った祖父の口癖は「日本人は油断のならない奴ら」。日本に着いたとたん、成田空港で温水洗浄便座の洗礼を受ける。京都では神秘の宿に感銘し、日本女性のふたつの顔を知る…。異国の地で独特の行動様式に戸惑いながら列島を旅するラリー。やがて思いもよらぬ自分の秘密を知ることに…。圧倒的読み応えと感動。浅田文学の新たな到達地点!(「BOOK」データベースより)
『わが心のジェニファー』について
本書『わが心のジェニファー』は、2015年10月に小学館からハードカバーで刊行され、2018年10月に小学館文庫から400頁の文庫として出版された長編の現代小説です。
これまでの浅田次郎の作品と同様に心地よい物語だったとは言えますが、決して面白いとは思えない作品でした。
一言で言うと、ラリーという一人のアメリカ人青年を通してみた日本という国を紹介した物語です。
ただ、作者である浅田次郎の考えというフィルターを通したアメリカ人青年の主観的な日本感だということからか、微妙な違和感を感じます。
作者は、日本に留学している外国人留学生の日本感を聞いてたそうですから、ラリーという青年の日本感にはかなりの客観性はあると思われます。
しかしながら、ラリーの語る日本は過剰なまでのサービスの国であり、日本人はみんな親切で、現実を知る人間にとっては妙な齟齬を感じました。
たしかに、日本人の親切さなことは事実であり、サービスの行きとどくことも事実だとは思うのですが、本書で述べていることはさすがに行きすぎではないかと思われるのです。
ただ、本書は物語もラリーが湯の町別府を訪れる後半に入るとファンタジーの要素が強くなってきますが、ファンタジーという観点からあらためて考えてみると、なにも後半ということではなく、この物語の当初から緩やかなファンタジーと言っていい気もしてきました。
浅田次郎という作家がもともとコメディータッチの作風を得意としていることを考え合わせると、緩やかなファンタジーの中に軽い皮肉を含ませながらも、やはり自然と融合した文化を育んできた日本という国への賛歌である、と素直に捉えていいのではないかという気がしてきたのです。
でも、本書が面白い小説家と問われれば、大絶賛しつつ是非お読みなさい、というわけにはいきません。正直面白い物語だったとは思えないのです。
それでもなお、この人の文章は読みやすく、心地よいものであったということは言えると思います。
『壬生義士伝』や『天切り松-闇がたりシリーズ』で見せた名調子はありません。普通の散文だと言えると思います。
それでもなお、心地よく読める文章であるというのは、私の好みと合致したというよりも、浅田次郎という作家の素晴らしい才能ゆえのことだと思われるのです。
