辻村 深月

イラスト1
Pocket

新刊書

ポプラ社

写真は Amazon にリンクしています。

楽天Booksは かがみの孤城 (一般書) [ 辻村 深月 ] へ。


どこにも行けず部屋に閉じこもっていたこころの目の前で、ある日突然、鏡が光り始めた。輝く鏡をくぐり抜けた先の世界には、似た境遇の7人が集められていた。9時から17時まで。時間厳守のその城で、胸に秘めた願いを叶えるため、7人は隠された鍵を探す― (「BOOK」データベースより)

本書『かがみの孤城』は、2018年の本屋大賞を受賞した、実に面白い、読み応えのある長編のファンタジー小説です。

同じく本屋大賞を受賞した作品である 上橋菜穂子の『鹿の王』を読んだときと同じような印象を持った、やはり本屋大賞受賞作品は素晴らしく、そして面白い、と改めて感じる作品でした。

勿論、内容は全く異なります。『鹿の王』(角川文庫 全四巻)は異世界を舞台にしたファンタジーであり、人の命と医療などについて深く考えさせられる物語でした。それに対し、本書『かがみの孤城』は、自分の居場所を無くした現実の中学生が、現実と異世界とを行き来し、自分の居場所を見つける物語です。

 

 

それでも同じ印象を持ったというのは、共にファンタジーであるということもそうですが、物語の世界の組み立て方が実に丁寧であり、構築された世界が堅牢であって、全く違和感なく物語の世界を楽しむことができる、という点での共通点を感じたからだと思います。

物語の世界が慎重に組み立てられている物語は読んでいて実に気持ちがいいものです。物語の世界に少しの破綻があると、そこから感情移入していた気持ち自体が冷めてしまい、一気に面白さが失せてしまいます。

 

そうした堅牢な世界が構築されているということは、本書の謎ときの側面が丁寧に組み立てられていることにも結び付いています。

張り巡らされた伏線が回収され、隠されていた事実が明らかにされるとき、ありふた言葉ではありますが、パズルのピースがピタリと当てはまったときの快感を感じさせてくれます。それは上質のミステリーを読んだときに感じることができる感覚と同質のものなのです。

例えば 米澤穂信の『満願』や 長岡弘樹の『傍聞き』などのような短編で小気味よいトリックが明かされるときの心地よさであり、意外性という驚きと共に、物語の序盤から貼られていた伏線が一つずつ回収されていく時の喜びでもありました。

 

 

そしてさらに本書『かがみの孤城』は、自分の居場所を失った子供たちの心の声を聞かせてくれる物語でもあります。いじめという大人社会でも問題になっている人間関係の難しさ、恐ろしさを、恐らくですが著者がフリースクールなどの現場の取材を重ねた結果の子供たちの声として示してくれていると思われます。

松崎洋の『走れ!T校バスケット部』(幻冬舎文庫 全十巻)という小説があります。この作品もいじめの問題を正面から取り上げてある良い作品でした。

ただ、小説としての出来がいいかと問われれば決して良いとは答えられません。ですが、作者の、教育とバスケットに対する情熱は本物と感じられ、小説としての出来を越えて引き込まれた作品でもありました。近く映画化の話も起きているそうです。

 

 

ともあれ、異世界の城と現実とを出入りするという本書『かがみの孤城』の設定は私の知り限りでは珍しい設定だと思います。

普通のファンタジーは本書の中にも出てくるC.S.ルイスの『ナルニア国物語』や、日本国内でも 宮部みゆきの『ブレイブ・ストーリー』(角川文庫 全三巻)という作品のように異世界に転移し、そこで冒険物語を繰り広げるという形式か、先にも書いた『鹿の王』のように話自体が異世界での物語だったりします。

 

 

ただ、 柳内たくみの『ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり』は、銀座の真ん中に異世界との通路が開くというものですが、この物語にしても主人公は異世界で暮らすことになっています。

 

 

そうした現実世界との自由な行き来が可能だという独特の設定のファンタジーである本書ですが、ただ、朝九時から夕方五時までという時間的な限定があります。

そして、異世界での行動範囲がお城の中だけという設定もユニークです。このお城はゲームをするための電気は通っているものの、水道やガスは通っておらず使えないのです。

こうした限定された世界ではありますが、個人用の部屋を用意してることもあり、居場所を亡くした子供たちにとってはまさに自分の城を持ったに等しい場所なのでしょう。

来年の三月三十日までの限定された活動場所で、子供たちがどのような行動をとるのか、読み始めたらやめられない作品です。しかし、それだけの価値がある作品です。

[投稿日]2018年06月29日  [最終更新日]2018年6月29日
Pocket

おすすめの小説

日本のファンタジー小説

英雄の書 ( 宮部 みゆき )
同級生を殺傷し行方不明になった兄を探し、本の助けを借りて、消えた兄を探すために“無名の地”へと旅立つ、小学五年生の森崎友理子の活躍を描いた作品です。
リーンの翼 ( 富野由悠季 )
バイストン・ウェル物語シリーズの一つであり、壮大な大人向けのファンタジー小説です。
グイン・サーガ ( 栗本 薫 )
日本のヒロイック・ファンタジーの最も著名な作品の一つで、豹頭の戦士であるグインを中心にした様々の人々のドラマを描いた大河小説です。残念ながら
西の魔女が死んだ ( 梨木 香歩 )
小学校を卒業したばかりの少女まいの、その祖母のもとでの夏のひと月ほどの体験を描いた、ファンタジーでもなく、童話でもない中編小説です
十二国記シリーズ ( 小野 不由美 )
古代中国思想を基盤にした異世界ファンタジーです。シリーズを通しての主人公は存在しないけれど、各作品の登場人物は時代を超えてリンクし合っています。未読ですが、かなり評判が良いようです。

関連リンク

辻村深月『かがみの孤城』は感涙必至の傑作長編! | P+D MAGAZINE
居場所をなくした子供たちが集められた理由とは?なぜこの7人がこの場所に?それが明らかになる時、感動の波が押し寄せます。著者最高傑作ともいえる、感動作。その創作の背景をインタビューします。
インタビュー 辻村深月さん 『かがみの孤城』 | 小説丸
「何人もの読者の方に、“この本は『冷たい校舎の時は止まる』のアンサーだと思いました”と言われました。デビュー作から読んでくれている人が待っていたものが書けたのかな、と思えて嬉しかったです」
『かがみの孤城』(ポプラ社) - 著者:辻村 深月 - 瀧井 朝世による書評
大人である現在の自分と、子どもだったあの頃の自分の両方を、同時に、ここまで慰め、励ましてくれる小説なんてはじめてだ。辻村深月の新作『かがみの孤城』のことである。
【2018年本屋大賞】辻村深月氏『かがみの孤城』に決定 | ORICON NEWS
全国の書店員が“今いちばん売りたい本”を決める『2018年本屋大賞』(本屋大賞実行委員会主催)発表会が10日、都内で行われ、辻村深月氏の『かがみの孤城』(ポプラ社)が大賞に選ばれた。
辻村深月が放つ最高傑作『かがみの孤城』 - ダ・ヴィンチニュース
辻村深月が帰ってきた――。新作『かがみの孤城』(ポプラ社)を読んだファンは、みなそう感じることだろう。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です