『廉恥 警視庁強行犯係・樋口顕』とは
本書『廉恥 警視庁強行犯係・樋口顕』は『警視庁強行犯係・樋口顕シリーズ』の第四弾で、2014年4月に刊行されて2016年8月に408頁で文庫化された、長編の警察小説です。
作者の主人公のキャラクター設定のうまさが光り、また家族やストーカー問題なども絡めた魅力的な面白い作品になっています。
『廉恥 警視庁強行犯係・樋口顕』の簡単なあらすじ
警視庁強行犯係・樋口顕のもとに殺人事件の一報が入る。被害者は、キャバクラ嬢の南田麻里。彼女は、警察にストーカー被害の相談をしていた。ストーカーによる犯行だとしたら、警察の責任は免れない。被疑者の身柄確保に奔走する中、樋口の娘・照美にある事件の疑惑が…。警察組織と家庭の間で揺れ動く刑事の奮闘をリアルに描く、傑作警察小説。(「BOOK」データベースより)
『廉恥 警視庁強行犯係・樋口顕』の簡単なあらすじ
本書『廉恥 警視庁強行犯係・樋口顕』の出版が二〇一四年四月で、シリーズ前作の『ビート』が二〇〇八年四月の出版ですから、その間に六年という時間が経っています。
前作『ビート』では警察官と家族とのありかた、また父親と息子の問題とが描かれていましたが、本作でもまた、本来の事件の関係者ではないかと疑われる樋口の娘と樋口との問題が描かれています。
こうした設定は今野敏の『隠蔽捜査』でも見られるような既視感があり、その点が難点と言えば言えるのかもしれませんが、そうした点を考慮してもなお面白い小説であることに間違いはありません。
更には本書『廉恥』ではストーカ犯罪が一つのテーマになっていて、警察庁から派遣されてきた小泉蘭子刑事指導官がストーカー事案の専門家として意見を述べています。
これらの仲間の力を借りながら事件の真相に近づいていく書き方はもちろん定番ではありますが、内省的な主人公キャラクタ設定のうまさや、家族の問題をも絡ませることで、主人公の人間的な深みをも描き出すうまさなどをいつも感じさせられます。
そして、今野敏の物語に感じる人情話にも通じる物語の運び方は、心地よい読後感をもたらしてくれるのです。
そういえば、私が面白いと感じる小説のほとんどには物語の根底に人情話が潜んでいると言ってもといいかもしれません。
そうした観点で見ると例として拾い出すのが困難なほどに多くの作品があります。
近時読んだ本で言うと柚月裕子の検事の本懐も例として挙げることができるでしょうし、本書とは異なる冒険小説という分野では、元傭兵のクリーシィがマフィア相手に戦う物語であるA・J・クィネル の『燃える男』もそうでしょう。
物語が読者の心を打つ根源的なものは、結局は心同士のつながりにあるというところでしょうか。