柚月 裕子

佐方貞人シリーズ

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検事の本懐』とは

 

本書『検事の本懐』は『佐方貞人シリーズ』の第二巻目で、文庫本で432頁の連作の短編小説集です。

佐方貞人シリーズの第一作『最後の証人』ではヤメ検として登場していた佐方貞人が、未だ新進気鋭の検察官として活躍する姿を描いた作品で、2012年に山本周五郎賞候補となり、2013年には大藪春彦賞を受賞しています。

 

検事の本懐』の簡単なあらすじ

 

ガレージや車が燃やされるなど17件続いた放火事件。険悪ムードが漂う捜査本部は、16件目の現場から走り去った人物に似た男を強引に別件逮捕する。取調を担当することになった新人検事の佐方貞人は「まだ事件は解決していない」と唯一被害者が出た13件目の放火の手口に不審を抱く(「樹を見る」)。権力と策略が交錯する司法を舞台に、追い込まれた人間たちの本性を描いた慟哭のミステリー、全5話。第15回大藪春彦賞受賞作。(「BOOK」データベースより)

 

「樹を見る」
連続放火事件の被疑者逮捕に際し、米崎東警察署の南場署長との間に確執がある県警本部刑事部長である佐野の横やりが入ることが予想された。そこで、この事件は、米崎地方検察庁刑事部副部長の筒井義雄の推薦により佐方貞人検事が担当することとなった。

「罪を押す」
当初は、出所当日に犯された簡単な窃盗事件と思われていた事件だった筈だが、佐方検事の調べが進むにつれ、思いもかけない展開を見せるのだった。

「恩を返す」
高校時代の同窓生連絡があり、呉原西署の現職の警官か脅迫を受けていて助けて欲しいという。佐方は十二年前の約束を果たしに呉原市に帰るのだった。

「拳を握る」
佐方は疑獄事件の応援のために東京地検特捜部に入ることになった。しかしそこでは、巨悪の取り締まりのために無実の人が罪を被りそうになっているのだった。

「本懐を知る」
佐方貞人検事の父親である佐方陽世弁護士は、財産管理を任されていた小田嶋建設会長からの預かり金を横領したとして懲役二年の実刑判決を受け収監されていた。ライターの兼先守はその事実を調べに広島に入るのだった。

 

検事の本懐』の感想

 

本書『検事の本懐』は、著者である柚月裕子が敬愛するという横山秀夫の作品が醸し出す雰囲気に似た作品集になっています。

それは、問題となる事件そのものの背景となる事実にまで目を向けるというものであり、かなり社会性の強い作品集になっているのです。

この『佐方貞人シリーズ』はかなり私の好みに合ったようで、立て続けにこのシリーズを読むことになりました。

検事が主役のミステリーと言えば、読んだのが四十年近くも前のことなので内容はほとんど覚えてはいませんが、高木彬光の『検事霧島三郎』がまずは思いだされます。正義感に燃える青年検事の颯爽とした姿は、映画化もされるほどに人気がありました。

 

 
(上掲右のイメージはKindle版です)

ほかに現役の弁護士作家であった中嶋博行の江戸川乱歩賞受賞作『検察捜査』や夏樹静子の『女検事霞夕子』などもあります。

現役の弁護士作家と言えば和久峻三の『赤かぶ検事奮戦記』シリーズもそうです。『赤かぶ検事』も、フランキー堺他の人によりテレビドラマ化されました。これらも数十年も前に読んだ作品なので、はっきりとした筋立てなどの中身は覚えていません。

ということは近年では検事が主人公の推理小説はないのでしょうか。法坂一広の『最終陳述』という作品があるそうですが、これは検事が主人公ということではなく、いわゆる法廷ものというべき作品のようです。

 

 

それはさておき、本書『検事の本懐』での佐方貞人は「罪はまっとうに裁かれなければならない」という信念のもとに、書面にあらわれた事実の裏側まで知ろうとし、事実自らの足で調査に赴いたりもします。

現実問題として、数多くの事件を抱える検事が全ての事件ごとに自分で調査をすることなどは不可能でしょう。

実際、第四話の「拳を握る」において、輪泉副部長が「青臭い正義感を振りかざしやがって!」と発したように、主人公の佐方が目指す生き方は現実にはかなり難しいものではあるでしょうし、事実上無理と言い切っていいと思われます。

しかし、そうした書生論をそのままに生きていく姿にどこかしら羨ましく思っていることもまた事実であり、その願望を体現してくれるという側面もあるのではないか、と思っています。

 

本書『検事の本懐』の別な側面では、第一話「樹を見る」や第四話「拳を握る」で特に見られるように、三権の一つである司法の分野における検察権力の横暴という事実を告発している側面もあります。

現実でも2010年に特捜所属の検察官による証拠隠滅事件が起きたように、決して絵空事ではないのです。

検察の実情については、魚住昭というジャーナリストが書いた『特捜検察』というノンフィクションがありました。検察の実情に斬りこんだ読み応えのあるノンフィクションでした。

 

 

また、第五話の「本懐を知る」では、佐方貞人の父親について語ることで佐方検事の過去を明らかにし、現在の佐方検事の生き方の原点をも示しています。

父親の清廉な生き方そのものが佐方貞人の生き方に強い影響を与えていると同時に、第二話に如実に表れているような社会性の強い物語であることの一側面がここにも表れていると言えるかもしれません。

現時点で(2021年08月)は、私の中でいち押しの作家さんの一人である柚月裕子の作品の中でも一番面白いと思っているシリーズです。続編を心待ちにしたいシリーズです。

[投稿日]2017年05月02日  [最終更新日]2021年8月29日
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