本書『教場』は、文庫本で324頁の、警察学校を舞台にした全六編からなる連作のミステリー短編集です。
『週刊文春ミステリーベスト10 2013年』の第1位、『このミステリーがすごい! 2014年版』で第2位、そして2014年本屋大賞の候補作にもなった、評価が高く、読みがいのある作品です。
『教場』の簡単なあらすじ
希望に燃え、警察学校初任科第九十八期短期過程に入校した生徒たち。彼らを待ち受けていたのは、冷厳な白髪教官・風間公親だった。半年にわたり続く過酷な訓練と授業、厳格な規律、外出不可という環境のなかで、わずかなミスもすべて見抜いてしまう風間に睨まれれば最後、即日退校という結果が待っている。必要な人材を育てる前に、不要な人材をはじきだすための篩。それが、警察学校だ。週刊文春「二〇一三年ミステリーベスト10」国内部門第一位に輝き、本屋大賞にもノミネートされた“既視感ゼロ”の警察小説、待望の文庫化!(「BOOK」データベースより)
ある警察学校の学生をそれぞれの話の主人公として話は進みます。
職務質問や取り調べのやり方、交番実習、運転技術等々、普段私たちが目にすることも耳にすることもないであろう事柄を織り込みながら、警察学校の学生の日常的な暮らしの中での起こるミステリーとも言える出来事が語られています。
各話に登場する学生たちはそれぞれに個性の異なる学生です。
全体を統括する立場の教官として風間公親というこれまたミステリアスな男が登場します。
この教官が魅力的であり、各話に少しだけ顔を出します。そして強烈な印象を残しながら物語をまとめていくのです。
『教場』の感想
本書『教場』の魅力は、よく書きこまれた個々の登場人物と、なにより個別の出来事のアイデアがよく練られているところにあるのでしょう。
個別の出来事の伏線の張り方がうまく、更に一種の青春小説とも言えそうな物語のなかで、回収作業もうまく処理してあるのです。
ただ、この点に関しては、謎そのものの解明にではなく、謎解きの過程や謎解きにかかわる人間の描き方に興味がある私の印象なので、異論があるかもしれません。
一方、鬼教官たちのいじめとも言えそうな描写や一般社会とは異なる決まりごとなど、綿密な調査のうえでの描写でしょうから間違いはないのでしょうが、若干違和感を感じないでもありません。
でも、強烈な縦社会である警察のことですし、あくまで虚構である小説でのことですから、そこはあまり言うべきところではないのでしょう。
『教場』という作品から思い出す、設定や作風の似た作品を考えましたが、出てきませんでした。それだけ本作品がユニークだということだと思います。強いて言えば、作者本人が参考にしていると明言している横山秀夫作品を挙げることができるでしょうか。
とはいえ、物語にぐんぐんと引き込まれていったのは間違いない事実であり、警察小説の新しい書き手として非常に楽しみな作家さんの登場は実に楽しみです。