『狩人シリーズ』とは
本『狩人シリーズ』は、新宿署の一匹狼刑事を狂言回しとしたハードボイルドシリーズです。
大沢作品の中でも『新宿鮫シリーズ』と並ぶ人気シリーズであって、厚みのあるハードボイルド作品として個人的には一番好きなシリーズでもあります。
『狩人シリーズ』の作品
『狩人シリーズ』について
この『狩人シリーズ』というシリーズは、小太りで離婚歴がある新宿署の一匹狼刑事である佐江をメインに重厚感のある物語世界を構築してあります。
この佐江刑事が良い味を出しています。各巻ごとに主人公は異なり、しかしながらいつも一匹狼の佐江刑事だけはそこにいるのです。
ただ、第三巻の『黒の狩人』だけは佐江刑事が中心となって活躍します。
第一巻『北の狩人』の梶、第二巻『砂の狩人』の西島、そして第四巻『雨の狩人』の谷神と、メインになるキャラクターは異なりますが、どうしてもアクションメインになりがちのようです。
まあ、第四巻の『雨の狩人』は佐江刑事と谷神との共同作業だとも言えますが。
しかし、佐江が中心となる『黒の狩人』は、どちらかというと、佐江が相方となる中国人と一緒に足で情報を集め、謎の解明するというミステリーに重点が置かれている物語になっています。
佐江刑事はっきりした年齢は分かりません。どこかに書いてあったのかもしれませんが、覚えていないのです。
雰囲気としては北方謙三の『眠りなき夜』や『檻』などの作品に登場する”老いぼれ犬”と呼ばれている高樹良文警部を思い出してしまいました。
同じ一匹狼ではあっても、”老いぼれ犬”は北方作品の登場人物ですからかなりキザです。フォスターの「老犬トレー」を鼻歌で口ずさみ、火のつきにくい旧式のオイルライターを愛用する姿が描かれています。
一方、こちらの佐江刑事はそこまでのキザな姿はありません。それどころか、見かけは単なる小太りの中年のおっさんです。
しかし、自分の信じるところに従って行動する姿はハードボイルドの心を持っています。「日常のなかで、普通の人が成り得るヒーロー」が佐江だと作者は言いますが、普通の人はなかなか佐江のようにはなれないのではないでしょうか。
「“これは新宿鮫だから大丈夫だろう”って思ってついて来てくれるだろう
」と思いながら九作、「今度は、そこでは書けないようなこと、方向性は異なるけれど新宿を舞台にして書きたいことがいっぱい出てくる。それを実現したのが『狩人』シリーズです
」と著者は述べています。「『新宿鮫』の合わせ鏡のような作品」だというのです。
また、本書の惹句には「『新宿鮫』と双璧を成す警察小説シリーズの最高傑作
」とも書いてありました。
そこまで言い切ることができるのか、と第一巻と第四巻を読んだ時点では思っていましたが、第二巻『砂の狩人』、第三巻『黒の狩人』を読み終えた今ではまさにその通りだと思いなおしています。
ちなみに、2019年9月24日現在、北陸新聞など多くの新聞でシリーズ最新作の『冬の狩人』が連載されているそうです。( 大極宮 大沢在昌 連載情報 : 参照 )
追記 : 2020年12月29日
その『冬の狩人』がやっと出版されました。期待に違わない出来でした。
ただ、我儘ないちファンの好み、いや要望としては、『黒の狩人』のように佐江が脇に回り、魅力的な主人公を助ける物語を読んでみたかった、という思いもあります。
どちらにしても、やはりこの『狩人シリーズ』は面白いシリーズであることに違いはありません。
続編を期待します。