柚月 裕子 雑感
『柚月裕子』のプロフィール
1968年岩手県出身。2008年『臨床真理』で第7回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞しデビュー。13年『検事の本懐』で第15回大藪春彦賞、16年『孤狼の血』で第69回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)を受賞。『盤上の向日葵』で「本屋大賞」2位。『最後の証人』、『検事の本懐』『検事の死命』『検事の信義』と続く「佐方貞人」シリーズはドラマ化もされ、著者のもうひとつの代表シリーズに。2019年には、『慈雨』が文庫化され30万部を突破した。著書に『蟻の菜園─アントガーデン─』『パレートの誤算』『朽ちないサクラ』『ウツボカズラの甘い息』など多数。映像化も相次ぐ令和のベストセラー作家。
引用元:柚月裕子『孤狼の血』特設サイト|KADOKAWA
『柚月裕子』について
推理小説の分野で、久しぶりに私の感性にピタリと符合する作家さんに出会ったという印象がまず一番です。
最初に読んだ作品が『孤狼の血』で、まるであの映画『仁義なき戦い』のように飛び交う広島弁と、リアルに表現された極道の世界の描写にまず驚きました。
次に読んだのが『最後の証人』です。この作品は元検察官の刑事事件専門の敏腕弁護士である佐方貞人という男を主人公とする推理小説で、一作目の『孤狼の血』とは全く方向性が異なる作品でした。
一作目は男くさいハードボイルドタッチの警察小説、二作目は敏腕弁護士を主人公とした社会性の強い推理小説、そして三作目は『ウツボカズラの甘い息』という今度は普通の主婦を主人公にした推理小説と、作品ごとに異なるタッチの作品を発表されています。
しかし、何といっても一作目の『孤狼の血』の印象が強烈で、この作品は第69回日本推理作家協会賞を受賞し、更には第154回直木賞の候補作にも選ばれています。
また直木賞と言えば、20221年に出版された、手術支援ロボットをテーマに描かれた医療サスペンス小説である『ミカエルの鼓動』もまた第166回直木賞の候補作になっています。
柚月裕子という作家のことを調べてみると、写真の印象がまだ若い女性であることに驚かされます。とにかく『孤狼の血』という作品が広島ヤクザの物語で、それもかなり強烈な描写の作品ですから、まだ若い女性が書いたなどとても想像すらできませんでした。
また、その作品の多様さにも驚きです。先にも書いたように、全部がミステリーではあるものの、弁護士や検察官、それにヤクザから悪徳警官、普通の主婦、家裁調査官など主人公は様々で、作品の内容も『あしたの君へ』などはミステリーの要素は残しつつもヒューマンドラマとして仕上がっています。
この作家が大好きな作品として挙げているのが先に述べた『仁義なき戦い』という映画であり、『麻雀放浪記』という小説だというのは、再度言いますが、驚きなのです。
と言いますのも、『仁義なき戦い』は有名な映画であるので分かると思いますが、『麻雀放浪記』は阿佐田哲也が著した作品ですが、タイトルからも分かるようにギャンブル小説です。
それも、全編麻雀を打っていると言っても過言ではなく、麻雀の世界で生きているアウトロー達を描いた物語なのです。牌を打つごとのギャンブラー同士の駆け引きの様が面白く、学生時代に皆で回し読みをしたものです。
決して若い女性が好む小説ではありません。真田広之主演で映画化もされましたし、ある年齢以上の方ならば知っている方も多いかもしれませんが、この小説を挙げるということはかなり男くさい物語がお好きな方なのでしょう。
推理小説の中では、私にとって今一押しの作家さんです。