大沢 在昌

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双葉社

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本書『夜明けまで眠らない』は、元傭兵のタクシー運転手を主人公とする長編のハードボイルド小説です。

この頃ひと昔前の大沢作品を読んでいたためか、のめり込んで読むことができる大沢作品があまり無かったのですが、本書はかなり面白く読めました。

 

タクシー運転手の久我は、血の匂いのする男性客を乗せた。かつてアフリカの小国で傭兵として戦っていた久我の同僚らしい。客は車内に携帯電話を残して姿を消した。その携帯を奪おうとする極道の手が迫り、久我は縁を切ったはずの激しい戦いの中に再び呑まれていく。疾走感みなぎる傑作ハードボイルド!(「BOOK」データベースより)

 

本書『夜明けまで眠らない』の主人公久我晋は、傭兵だったという過去を持つタクシー運転手です。

そして、久我の前に現れる敵も、久我の傭兵経験の中で夜に眠れなくなった原因を作ったという人物です。

もちろん、ヤクザも立ちふさがりますが久我の敵ではありません。現実の戦争、それもアフリカの森林での戦闘をも経験している主人公にとっては現代の都会でのヤクザは物の数ではないのです。

 

元傭兵を主人公とした作品といえば、 今野敏の『ボディーガード工藤兵悟シリーズ』があります。優れた格闘術と傭兵経験を活かしてボディーガードを生業としている工藤兵悟を主人公とするアクション小説です。

 

 

また、外国の小説ですが A・J・クィネルの『燃える男』という作品はかなりの読みごたえがあった作品でした。

元傭兵である老ボディガードのクリーシィと少女の組み合わせは、激しいアクションの中にも熱くさせるものがありました。

 

 

話を本書『夜明けまで眠らない』に戻すと、久我の運転するタクシーに乗ってきたカケフと名乗る日本人が車内に置き忘れた携帯電話が久我の日常を奪ってしまいます。

カケフはすぐに死体となって発見され、カケフの婚約者の市倉和恵という女性から久我に連絡が入ります。

彼女の話では、カケフは本名を桜井といい、ある人物の警護で日本に来ていた際に偶然久我に会ったらしいというのです。

そして、現地の言葉で「夜歩く者」を意味する「ヌアン」という言葉を聞いていたというのでした。

 

傭兵の経験者が、傭兵時の出来事のために夜眠ることができなくなって、深夜勤務のタクシー運転手として暮らしています。

そこに、たまたま乗った客が傭兵時代へと主人公を引き戻すという状況は感情移入しやすい設定でした。

こうした導入部からすぐに、主人公のキャラクタを示すヤクザとの対決の場面が用意されています。

置き忘れられた携帯電話を渡すようにと脅してくるヤクザと久我との会話が、客商売のタクシー運転手としての会話であり、印象的です。

そして、久我が勤務する会社の主任の岡崎が訳ありの元ヤクザであり、久我への理解を示すというのも主人公の立ち位置がはっきりして読みやすい設定でした。

 

そうした導入部を経て、主人公の久我が、殺された桜井が置いて行った携帯電話の秘密を本格的に調べ、久我自身の過去へと向き合い始めます。

そこで大切なのが、市倉和恵の妹市倉よしえという女性の存在です。彼女がこの物語に花を添えることになります。

また、久我を陰から支える人物として傭兵仲間のケベック州出身のカナダ人であるアダムという人物がいます。東京で精神科医を開業しており、久我の主治医でもあります。

この人物が、情報収集など多くの場面で久我を支え、久我の大きな力となっています。

 

ここで、市倉よし江という人物が、個人的には不要と思える存在でした。

彼女を危険な状態に置く、との行為の方が物語の進行上不自然であり、変な違和感を感じる原因ともなっています。

当初からそれなりの設定、人格をよしえに与えてあったのであれば別です。しかし、本書の場合そうではありませんでした。

 

とはいえ、彼女の存在が物語を面白くしている側面があることもまた否定はできません。色気の側面と同時に、情報収集の面でもそうなのです。

ということは、先の不満点も大したことではないと言わざるを得ないのでしょう。少なくとも私にとっても小さな瑕疵と言うしかありません。

事実、本書を読み終えて残ったのは面白かったという感想だけです。

 

以上の点はありながらも、つまりは久しぶりに面白いと思いながら楽に読めた作品でした。

エンターテイメント小説はこうあるべきという手本のような、というのは大げさですが、楽しく読めた一冊でした。

[投稿日]2020年09月29日  [最終更新日]2020年9月29日
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