ささやかだが平穏な暮らしが、その日、失われた。怪しい男たちが訪れた時刻から。三浦半島で小さなボート屋を経営していた渋谷は、海上で不審な船に襲われたうえ、店と従業員を炎の中に失う。かつて日本有数の登山家として知られた渋谷は、自らの能力のすべてを投じ、真実を掴むための孤独な闘いを開始する。牙を剥き出し襲いかかる「国家」に、個人はどう抗うことが出来るのか。(「BOOK」データベースより)
日本の名作冒険小説と言われる長編小説です。
再読してみました。前に読んでからもう30年以上もたっているでしょうか。
今は三浦半島で小さなボート屋を営んでいる、かつての日本有数の登山家だった主人公は、ある日突然店を焼かれ従業員も殺されてしまう。
その後、真相解明のために調べ始めるとCIAやKGBといった国家間の諜報戦の様相が見えて来て、その戦いに巻き込まれていくのだった。
やはり読み始めたら一気に読んでしまいました。文庫本で430頁余の本を4時間弱で読んだことになります。読む速度が速いのかそれと遅いのかは分かりませんが、やはり引き込まれてしまいました。
勿論本書の時代背景は古く、1976年9月に起きたベレンコ中尉亡命事件をモチーフに、北方領土問題を絡ませた物語なので、昔を知らない人たちにはピンと来ないかもしれません。
しかし、そうした時代背景は知らなくても、今でも最上級の冒険小説としての面白さをもっている本だと、今更ながらに実感しました。
途中で国後島での逃避行の描写がありますが、著者の手元にあった資料だけで書いたなどとは思えない迫力です。解説にも書いてありましたが、作家という人種は「見てきたような嘘」をつくのです。
また、志水辰夫氏本人の言として、北方領土問題をスローガンとして終わらせるのでは無く、「いまのうちに、かつての記録を、商業ベースに乗る本にして残しておきたいと思った」と言われています。
そしてこの資料が先にあって、「日本領土でありながら日本支配の及んでいない望郷の島、ここに日本人を潜入させ、高さ四、五百メートルもある絶壁を攀じ登らせたらどうだろう。」ということで本書の主人公の渋谷が生まれたのでそうです。
の発想でこれだけの本が書けるのですから、その才能がすごいとしか言いようがありません。
まずはこのあたりの作品を読んでもらうと志水辰夫という作家が分かるのではないでしょうか。
是非読むべき本の一冊です。お勧めです。