大沢 在昌

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文藝春秋

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本シリーズは、裏社会でのコンサルタントをしている水原という三十代半ばの女を主人公とするハードボイルドエンターテインメント小説です。

 

魔女シリーズ(2019年04月24日現在)

  1. 魔女の笑窪
  2. 魔女の盟約
  3. 魔女の封印

 

主人公の水原は実の祖母に十四歳で地獄島という魔窟に娼婦として売られますが、二十代半ばに島を脱け、二十八歳で整形手術を受け裏世界のコンサルタント業を始めたという女です。

物語はこの水原の一人称で書かれています。作者によると、一人称で書いた方がキャラクターに踏み込むことができますから、主人公に開き直りが生まれてくるんだそうです。

その娼婦として地獄島で生きてきたという悲惨な過去を持つ主人公は、実にクールな女として描かれています。

また、この主人公は裏社会の人物を顧客としてコンサルタント業を営んでいるだけあってタフでもあります。だからと言って、『明日香シリーズ』のヒロイン明日香のように派手なアクションで相手をやっつけるというわけでもありません。少なくとも第一巻の前半はまさにハードボイルドです。

確かに、二巻、三巻と、巨大組織との対立が描かれ、クールなハードボイルドというよりは、クールな女性を主人公にしているアクション小説と言った方が適切かもしれない雰囲気を醸し出していますが、『明日香シリーズ』(角川文庫 シリーズ完全版【全4冊合本】Kindle版)ほどではないのです。

 

 

そもそも、本シリーズの基本的な設定について『魔女の盟約』(文春文庫版八頁 : 参照 )から引用します。

地獄島とは熊本県の南西の八代海に百以上浮かぶ天草諸島の一つ浪越島が、通称地獄島と呼ばれる売春島だ。私は祖母の手で、十四のときにそこに売られ、何千人という客の相手をさせられた。二十四でその島から脱出したが、それが百年以上の島の歴史でただ一度だけ成功したといわれている“地獄抜け”だ。・・・島には「番人」と呼ばれる人の心を持たない男たちがいて、“地獄抜け”をした女の居場所がわかるや、連れ戻しにくる。

実は、この地獄島と日本の裏社会には密接な関係があり、七大組織と呼ばれる日本の広域暴力団の襲名披露では島の九凱神社からの使者の列席が必須のものとされ、それがなければ正式な披露とはみなされないという因習がありました。

しかし、その島も時代の波に押され、中国マフィアと組まざるを得なくなってきているほどに衰えてきていたというのです。

 

以上のように、本書の設定はかなり荒唐無稽なものであり、この作者の『新宿鮫シリーズ』や『狩人シリーズ』のようなシリアスなハードボイルドではありません。

 

 

しかし、それでもなおクールな女性を主人公としたハードボイルドとして、アクション小説としての側面も有しており読みごたえがあります。

女性を主人公としてのアクション小説と言えば、実はその世界では名の通った戦士の女が、圧倒的な暴力により殺されそうになっている子供たちを救出するという、 月村了衛の『槐(エンジュ)』などがあります。しかし、この作品はどちらかというと『明日香シリーズ』の方に近い作品でしょうか。

 

 

本書での魅力的な登場人物の一人にお抱え運転手の木崎という男がいますが、少なくとも第一巻ではその存在が示されるだけで、人間については何も書いてありません。正体不明の人物です。

この男については、第二巻で株の仕手筋で有名な、静岡のある老人のお抱え運転手だった。老人は私のコンサルタント会社の顧客で、遺言で木崎を託された男だとありました。未読の三巻には更なる情報があるかもしれません。

そしてもう一人、警官上がりのニューハーフの星川という存在がいます。この男(?)もまた主人公水原の心強い味方として活躍しています。

 

本書の魅力は、クールな水原というキャラクターの存在と共に、こうした仲間の魅力もよく描けていることになると思われます。

そして、ポイントに気の利いたアフォリズム(警句,箴言)が散りばめられており、読み進めていくうえで小気味いいリズムとして心に響いてきます。

こうした言葉を効果的に使えるというのはやはり作者の腕というものなのでしょう。

私しては『狩人シリーズ』のような作品の方が自分の好みにあっていると思うのですが、本『魔女シリーズ』はそれとして非常に面白く読むことができた作品でした。

[投稿日]2019年04月26日  [最終更新日]2019年7月1日
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