港町N市にある酒場「ブラディ・ドール」。店のオーナー・川中良一の元に、市長の稲村からある提案が持ちかけられた。その直後、弟の新司が行方不明になっていることを知った川中は、手掛かりを掴むために動き出す。新司は勤務先から機密事項を持ち出し、女と失踪している事が判明した。いったい弟は何を持ち出したのか!?そして黒幕は――。
ハードボイルド小説の最高峰が、ここに甦る。シリーズ第一弾!!( BLOODY DOLL 北方謙三 シリーズ第一弾『さらば、荒野』紹介文 : 参照 )
とある港町N市を舞台に、酒場「ブラディ・ドール」のオーナー川中良一をめぐり、キドニーと呼ばれる弁護士の宇野や、その他ピアニスト、画家、医者、殺し屋などの男たちが各巻毎に登場し、語り部となり、物語が展開していきます。
この作品こそが北方謙三作品の根底に流れる色を代表しているのではないでしょうか。
背景にジャズが流れているほの暗いバーでバーボンを飲む、その主人公は絵にかいたようなタフガイ、などという実にベタな設定です。ところがこのベタな設定が何の違和感も、勿論厭味も感じさせること無く、そのまま物語の舞台として成立しているのですからたまりません。男同士の絆。「友情」などという言葉で語っては全く異なる話になってしまうような、そんな「絆」の物語かもしれません。一番好きな作品です。
こうした雰囲気を持っているハードボイルド小説と言えば、やはりハメットやチャンドラーを抜きにしては語れないでしょう。共にハードボイルドという文学の形態を確立した作家として高名です。ハメットには『マルタの鷹』などの小説で活躍するサム・スペードがいますが、本書の川中は探偵ではありませんが、その人物像としてはチャンドラーの名作『長いお別れ』などで活躍するフィリップ・マーロウのほうが近いかもしれません。
日本国内でハードボイルドと言えば、まず挙げられるのは生島治郎でしょうが、かなり古く私も若い頃に『追いつめる』を読んだことがあるだけで、今は内容も覚えていません。他に大藪春彦や志水辰夫といった人たちもいますが、本書の設定に似たタイトルで東 直己の『探偵はバーにいる』を思い出します。「ススキノ探偵シリーズ」として人気がある小説で、大泉洋主演で映画化もされています。
なお、本書同様の色合いを持った作品として「約束の街シリーズ」があります。「ブラディ・ドール」シリーズは終了したのですが、この「街」シリーズの中に「ブラディ・ドール」シリーズの主人公川中が登場し、両シリーズは統合されたようです。
北方謙三を読むのなら、外してはいけない作品だと思います。
2016年9月ころから、『ブラディ・ドールシリーズ』がハルキ文庫(角川春樹事務所)から再び刊行されているようです。2017年5月現在で第五巻の「黒銹」までが出版されています。
ブラディ・ドールシリーズ(完了)
- さらば、荒野
- 碑銘
- 肉迫
- 秋霜
- 黒銹
- 黙約
- 残照
- 鳥影
- 聖域
- ふたたびの、荒野
約束の街シリーズ(2017年5月01日現在)
- 遠く空は晴れても
- たとえ朝が来ても
- 冬に光は満ちれど
- 死がやさしく笑っても
- いつか海に消え行く
- されど君は微笑む
- ただ風が冷たい日
- されど時は過ぎ行く
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