大沢 在昌

新宿鮫シリーズ

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暗約領域 新宿鮫11』とは

 

本書『暗約領域 新宿鮫11』は『新宿鮫シリーズ』の第十一弾で、2019年11月に刊行されて2022年11月に936頁で文庫化された、長編の警察小説です。

孤高の刑事を異色の経歴を持つ刑事を描いたハードボイルドシリーズという印象が薄くなっている印象の作品でした。

 

暗約領域 新宿鮫11』の簡単なあらすじ

 

薬物の取引現場を張り込んでいた新宿署生活安全課の刑事・鮫島は、男の銃殺死体を発見した。新上司・阿坂景子は鮫島に、新人の矢崎隆男と組んでの捜査を命じる。男は何者で、なぜ殺されたのか!?一方で、鮫島と因縁のある国際的犯罪者・陸永昌や元公安刑事・香田に不審な動きがー。シリーズ最大のボリュームと壮大なスケール!ラストまで一気読みの傑作長編!(「BOOK」データベースより)

 

暗約領域 新宿鮫11』の感想

 

本書『暗約領域 新宿鮫11』は、『新宿鮫シリーズ』の第十一巻目となる長編のハードボイルドチックな警察小説であって、新刊書で七百頁を、文庫本でも九百頁を超えるという大作です。

前巻『絆回廊』で大切な二人を失った鮫島の、新しい立場での活躍が描かれています。

前巻での意外過ぎる展開を受けての続巻であり、前巻を読み逃したまま本書を読んだ私としては、少なくとも前巻を読んでからのほうがよかったか、とも思っています。勿論、未読でも十分に面白い物語です。

また、シリーズを読むのが久しぶりだったためなのか、シリーズの初めに感じていた、鮫島という孤高の刑事を描いたハードボイルドという印象が薄くなっているとも感じました。

 

今回の物語は、外国人相手の違法薬物の取引が行われているというタレコミにより鮫島が設置したヤミ民泊の取引現場の録画映像に、殺人の現場が映っていたことから捜査が始まります。

発見された死体は身元の手掛かりすらなく、捜査は壁に突き当たりますが、そこに田島組というヤクザが絡んでいることを知ります。

さらには、前巻『絆回廊』で鮫島の命を狙い失敗した陸永昌、別名樫原等や公安の香田もまた鮫島の前に現れるのでした。

前巻では鮫島のよき理解者であった桃井課長を亡くし、とも別れるという大きな変動がありました。

その鮫島が本書では、基本こそ大事だという新任の課長の阿坂景子に戸惑いつつ、この阿坂課長から刑事は二人組での行動が原則だからと、新任の相棒の矢崎と組まされてもいます。

単独での行動の中にこそ魅力があった鮫島が、自分の行動が相棒にとって不利益になるかもしれないと考えるなど、行動を自制せざるを得ない状況にあります。

そうしたことがこれまでの鮫島と異なる印象を持った理由だとすれば、作者の意図の通りであり、その点を疑問に思った私こそが読み込みが足りないことになりそうです。

 

しかしながら、そうした事情を汲んだうえでもなお組織に対する、もしくは仲間という存在に対する鮫島の考えがこれまでとは異なる感じはあります。

本書『暗約領域 新宿鮫11』のストーリーが、例えば今野敏の描く『隠蔽捜査シリーズ』や、誉田哲也の描く『姫川玲子シリーズ』のように、チームとしての捜査の過程自体を描き出す警察小説と似た印象をうけたのです。


チームとしての捜査陣が活躍する物語とは異なるはずなのにそう感じるということは、孤高を保ってきた鮫島の、“仲間”を守るというこれまでにはない感情が前面に出ていることから来るのではないかと思われます。

“仲間”という観点からすると、数少ない鮫島の理解者である鑑識の藪との共同での張り込みというこれまでにない状況もあります。

と同時に、本来は敵対するはずの田島組の>浜川との情報の交換、香田との奇妙な連携などが織り込まれているところからも来ているのかもしれません。

本来は晶という最大の理解者との別れを経た鮫島は、より孤独に、先鋭的になると思われるのですが、少なくとも本書ではその逆を行っているとも言えるのです。

 

ともあれ、前作『絆回廊』の出版から八年が経っています。個人的にはその前の『狼花(おおかみばな) 新宿鮫Ⅸ』以来の十三年ぶりの新宿鮫になります。

七百頁を超えるという長さの物語のため少々長すぎないかという思いはあり、また鮫島の印象の変貌もあるものの、やはり面白い作品であることは間違いありませんでした。

鮫島の今後の活躍をなお期待したいと思います。

[投稿日]2020年01月07日  [最終更新日]2024年4月25日

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