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藤原 伊織 雑感

59歳という若さで亡くなられましたが、その作品群はどれも第一級の面白さがあります。

その小説はハードボイルドとも言われ、また冒険小説とも言われるようですが、分類は二の次として、エンターテイメントとして十分な読み応えで、物語としての厚みを感じさせてくれます。

ある文庫本のあとがきに郷原宏氏がこの作家の特徴について書いておられました。

第一は「端正で拡張の高いその文体」であり、第二に「軽快で歯切れのいい会話の面白さ」、第三に「個性的な登場人物の威力」だそうです。文芸評論家というプロの力を思い知らされました。

藤原伊織に限らず、面白い作品の書き手である作家は他の作家とどこが違うのだろうと常々思っていました。勿論それはストーリー構成であろうし、また、文体でもあるだろう、などと漠然と思っていたものです。しかし、これほど端的に示されると感心するしかありません。

作品の中で気のきいた会話に出会うと内心「やった!」と思います。厭味にもならず場面を壊しもしない、粋と言うしかない会話は、それ自体読み手である私を嬉しくさせてくれます。「やった」という表現はおかしいかもしれませんが、快哉を感じつつ読み進めさせてくれるのです。そして、そうした場面によく出会うのが藤原作品なのです。

藤原伊織の作品は、この気のきいた会話と無駄のない文体で非常にテンポよく読み進むことが出来ます。

面白い小説として自信を持ってお勧めできます。

還暦を前にして亡くなられたので新しい作品はもう読めません。作品数もそれほど多くは無いので是非一読されることをお勧めします。

[投稿日] 2015年04月19日  [最終更新日] 2015年5月23日
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