大沢 在昌

狩人シリーズ

イラスト1


北の狩人』とは

 

本書『北の狩人』は『狩人シリーズ』の第一弾で、1996年11月に幻冬舎からハードカバーで刊行され、1999年8月に幻冬舎文庫から350+347頁の上下二巻の文庫として出版された、長編のハードボイルド小説です。

読み始めに感じた期待感は持続しませんでしたが、それでも文庫上下巻合わせて700頁近い長編でありながら、かなり読みごたえのある作品でした。

 

北の狩人』の簡単なあらすじ

 

新宿に北の国から謎の男が現れる。獣のような野性的な肉体は、特別な訓練を積んだことを物語っていた。男は歌舞伎町で十年以上も前に潰れた暴力団のことを聞き回る。一体何を企んでいるというのか。不穏な気配を感じた新宿署の刑事・佐江は、その男をマークするのだが…。新宿にもう一人のヒーローを誕生させた会心のハードボイルド長編小説。(上巻 : 「BOOK」データベースより)

ついに、北の国から来た男の正体と目的が分かった。その瞬間、新宿署の刑事だけでなく暴力団の幹部までもが息を呑んだ。「あの時の…」彼は十二年前に葬られた、ある出来事の関係者だったのだ。過去の秘密が次々に明かされていく。やがて彼は「獲物」を仕とめようと最後の賭けに出る。だがそこには予想だにしていない悲しい結末が待っていた。(下巻 : 「BOOK」データベースより)(「BOOK」データベースより)

 

新宿にふらりと現れた一人の若者が、十年以上も前に潰れてしまった「田代組」という暴力団のことについてヤクザに声をかけて聞きまわっているのですから何事かと気になります。

この若者を見ていた新宿署の刑事である佐江も同じ印象を持ったようで、田舎ものと目星を付けた女子高校生の杏とエリによって、その筋の経営する店へと送りこまれたこの若者を助け出すのでした。

 

北の狩人』の感想

 

本書『北の狩人』は、狩人シリーズの第一作目である長編のハードボイルド小説です。

この梶雪人という若者は何故ヤクザに喧嘩を売るような行動をとっているのかと、冒頭から示される謎につい引き込まれてしまいました。

また、この若者は田舎者であることを隠そうとはしないものの、鍛え上げられた肉体をもち、ヤクザ相手に全く物怖じしない態度であり、その純朴さも含め、まさに新しいヒーロー像と言って良いほどに実に魅力的に感じたのです。

そして、序盤でこの若者を引っかけたという娘のほのかな恋心など、物語としての見せ方が上手い、と感じ入ってしまいます。さすが大沢在昌なのです。

 

ところが、物語の序盤を過ぎ、少しずつ謎が明らかになってくるあたりから微妙に雰囲気が変わってきます。

そして、文庫本の下巻に入るあたりには、普通のアクション小説へと変化していました。冒頭で見せた純朴な青年である梶雪人という青年のヒーロー性は消えて無くなっていました。

面白くないのではなく、新鮮さが無くなり、大沢在昌のいつもの面白さ満載のアクション小説になっていたのです。

シリーズを通しての語り手である新宿署刑事の佐江宮本近松というヤクザ、それに新島という正体不明の男という登場人物は、いつもの大沢小説に登場する刑事であり、ヤクザであって、当初感じた新鮮な風は消え、大沢在昌らしいアクション小説になっていました。

本書『北の狩人』の「あとがき」で、千街晶之氏が主人公の梶雪人について「純朴な梶は、巻頭の登場シーンこそ不穏な雰囲気を漂わせているものの、後半は何やら頼りなくも見えてくる。」と、同じようなことを書いておられました。

新宿鮫シリーズ』の鮫島を思わせるヒーロー像あったはずの存在が普通の青年に変わってしまったのです。

しかしながら、本書『北の狩人』を第一巻目とするこの狩人シリーズは、大沢在昌という作家の作品の中でも『新宿鮫シリーズ』と並ぶ面白さを持ったシリーズだと思います。

なお、本書『北の狩人』を原作とする、もんでんあきこ著の『雪人 YUKITO』というコミックがあります。このコミックがなかなかによく、原作の雰囲気もこわさない、読みがいのあるコミックとして仕上がっていました。

[投稿日]2017年01月12日  [最終更新日]2024年4月24日

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