一生に一度だけ、死者との再会を叶えてくれるという「使者」。突然死したアイドルが心の支えだったOL、年老いた母に癌告知出来なかった頑固な息子、親友に抱いた嫉妬心に苛まれる女子高生、失踪した婚約者を待ち続ける会社員…ツナグの仲介のもと再会した生者と死者。それぞれの想いをかかえた一夜の邂逅は、何をもたらすのだろうか。心の隅々に染み入る感動の連作長編小説。 (「BOOK」データベースより)
辻村深月著の『ツナグ』は、死者との再会を通して様々な人間ドラマを描き出す感動の長編小説で、第32回吉川英治文学新人賞を受賞した作品です。
さすが辻村深月と言えるほどによく練られた構成を持った、皆が高く評価する理由も納得できる素敵な物語でした。
「死」をテーマにする小説作品と言えば、まずは医療ものや山岳ものの小説がすぐ頭に浮かびます。これらは現実社会の中での直接的な死の物語です。
しかし、本書のように通常の生活の中での死者との対話となると、それはSFもしくはホラー、またはファンタジー小説の分野ということになるでしょう。
そして、死者との再会というテーマ自体は決して珍しいものではないと思われます。
例えば、SF小説の分野ではタイムマシンに乗れば過去へ戻るのは簡単であり、そこには当然死んだ人もいて、設定次第で会うことは可能です。
時間旅行ものと言えば 梶尾真治がおり、その作品で『黄泉がえり』では文字通り死者がよみがえります。この作品は草薙剛と竹内結子主演で映画化され、柴崎コウの主題歌も大ヒットしました。
過去への旅というテーマでは 浅田次郎も『地下鉄に乗って』という作品を書いています。
ある日突然、地下鉄から地上へ出るとそこは過去の世界であり、主人公は自分の父親と出会います。けっして仲が良いとは言えなかった父親の生きざまを見て、父親に対する主人公の思いも変化するのです。この映画も堤真一を主人公として映画化されています。
また、ファンタジックな物語として本書と似た作品として、 川口俊和の『コーヒーが冷めないうちに』という切なさにあふれた作品があります。
ある喫茶店のある席に座ると、注がれた珈琲が冷めない間だけ、一定の条件のもとに過去に戻ることができるというのです。この作品も有村架純主演で映画化されています。
このように、テーマ自体は特別なものではないのですが、当然のことながら処理の仕方が作家によって異なります。
『黄泉がえり』はロマンチシズムにあふれ、『地下鉄に乗って』はしっとりと心に染み入り、『コーヒーが冷めないうちに』は切なさに満ちた物語として仕上がっているのです。
そんな作品群の中で、本書辻村深月の『ツナグ』は、各物語が連作短編風に紡がれていきます。
ところが、読み終えてみると個々の話は大きな仕掛けの中に位置づけられる話であり、最終的に本書全体として一編の長編物語として成立しています。
詳しく書くとネタバレになりかねないので書きませんが、こうした作品はやはり一読してもらわないとわからないでしょう。
この作家は最初に読んだ『鍵のない夢を見る』という直木賞受賞作品が今一つ心に響いてこず、その後手に取ることもなかったのですが、本屋大賞を受賞した『かがみの孤城』でこの作家の面白さを再認識させられたものです。
それに、近時、『ツナグ 想い人の心得』という本書の続編が出版され、ベストセラーになっていることもあって本書を手に取る気になったものです。
早速読みたいと思っています。